ともえ庵が目指している「食べて気持ちの良いかき氷」、氷については既に紹介しました。
http://www.tomoean.net/2017/05/22/71027962/
「溶けすぎるかき氷」とまで言われる儚い氷、つまり口に入れた瞬間に溶けて冷たさを残してすっと消える、そんな氷に合わせるシロップは、「前に出過ぎないこと」が重要と考えています。
あまり主張せず、それでも氷の美味しさを協力にサポートするようなシロップが理想です。
■氷の上に乗らないシロップ
うちで使うシロップの条件のひとつが、氷の上に乗らないこと。つまり、氷に浸みこむシロップです。
氷の上に乗るシロップは、ふわっとした氷の食感を損ねますし、混ぜて食べた時にも氷より先に味を主張し、最後まで口の中に残るように感じます。つまり、シロップが主役になってしまうのです。
氷に浸み込み、氷と一体になって美味しさを引き出せるのが、ともえ庵の理想のシロップ、なので、すべてのシロップはそれを第一に、果肉が主体で浸み込みにくい苺のシロップは少しでも浸み込みやすいように薄めに仕上げています。
■シロップの味は素材を活かし、「甘さ以外」を重視しています
ともえ庵で使うかき氷のシロップは言うまでもなく基本的に自家製です。
「基本的に」と書いているのは、一部だけ楽しさを優先してあえて市販のものを使うかき氷を出すからです。広島県の中元本店のラムネを甘さを調節したかき氷にそのままかける「ラムネのかき氷」などが例外的なメニューです。
自家製のシロップを作る際には、素材の持ち味を活かすということです。うちが考える持ち味は、抹茶や果物の苦みや渋み、柑橘をはじめとする果物の酸っぱさ、生姜の辛み、果物の食感というような「甘さ」以外の要素です。
かき氷の氷はつまるところ水が固まったものを薄く細かく削ったものなので、普通に食べたり飲んだりしているものをそのままシロップとしてかけると味が薄まり、美味しくなくなります。例えば、コカコーラや缶コーヒーなどはかなり甘い飲み物だと思うのですが、それでもかき氷にかけるとかなり薄く、食べられたものではない味になるのです。(なので、ラムネをそのままかけるかき氷には、あらかじめ砂糖のシロップで甘さを加えておきます)
ですから、かき氷に使うシロップはどのような素材を使用するものであれ、甘みを加えて食べて美味しい味に調整しています。そうなると、シロップの素材に求められるのは砂糖が補う「甘さ」以外の味や感覚が重要になるという訳です。
既に紹介した「夏みかん」などは、多くの人にとってはそのまま食べると酸っぱすぎて美味しくない果物ですが、その際立った酸味があるシロップに加工した際には他にない個性になり、本当に美味しいかき氷ができるのです。
http://www.tomoean.net/2017/05/11/70868969/
■抹茶は飲用のものを使い、自家製練乳やつぶ餡と合わせると美味しい味に仕上げています
ともえ庵ではかき氷の味のうち「抹茶」、「練乳」、そして「つぶ餡」を定番と考えています。
そのうちのひとつである抹茶は、正直に言うとあまり高級なものではなく、安いクラスのものを使用しています。ただし、うちでは飲用のもの、つまり茶道で使われる抹茶を使用しています。
抹茶には、茶道で使用するもの以外に、稽古用のものや製菓用として販売されているものがあり、価格がまったく違います。価格の違いは使う茶葉と粉にする挽き方の違いです。
抹茶の原料は碾茶(てんちゃ)です。花粉症に効くと言われる甜茶(てんちゃ)とは読みが同じなので混同される方もいるかもしれませんが、まったく別物です。この碾茶の新芽だけを摘み、石臼で時間をかけて挽いたのが飲用の抹茶です。石臼でゆっくりと挽くのは、摩擦による温度の上昇を防ぎ、香りが飛ばないようにしているからです。
稽古用や製菓用の抹茶は、一般的には新芽以外の葉で、機械で挽いています。最近、抹茶のスイーツが日本のみならず世界中で流行しつつありますが、こうしたスイーツに用いられるのが製菓用の抹茶です。飲用のものに比べて香りは落ちますが、色についてはむしろ製菓用のほうが緑の色が濃く、きれいに仕上がる場合もあります。
かき氷屋さんの抹茶は店により様々です。出来合いの抹茶シロップは言うまでもなく製菓用の抹茶か、碾茶ではない茶葉を粉末にした粉茶を使っています。店内でシロップを作ってられるお店でも製菓用をお使いの店が少なくないと思います。また、飲用の抹茶を使いつつも、発色がきれいな製菓用をブレンドしてシロップにされている店もあります。中には飲用の中でも高級な抹茶を使用し、かなり高価なかき氷として提供されているお店もあります。
上でも書いたとおり、うちでは「飲用の中でリーズナブルな抹茶」を使っています。かき氷にした時にうちが提供したい品質を考えた際に、抹茶の美味しさを出ために飲用のものを使うのは当たり前、でもかき氷が高価にならない範囲で使えるものと決めました。抹茶の色についても飲用の抹茶の色なのでそれほど濃い緑にはならないのですが、これは仕方ないことと割り切りました。ただ、抹茶の量はかなり多く使っているので、香りについてはかなり良いのではないかと思っています。
ともえ庵の抹茶のかき氷はシロップの甘さを微妙に抑えて作っています。うちでは、どのシロップも甘さは控えめなのですが、その中でも抹茶は群を抜いて控えめな甘さです。これは、自家製練乳やつぶ餡、もしくはその両方と合わせて食べてもらうことを考え、他の甘い素材に対して抹茶の個性が死なないようにという考えからです。
ですから、抹茶シロップだけのかき氷を召し上がっていただいた場合には、人によってはかなり甘さが足りないと感じられるかもしれません。その際は、店のスタッフにお申しつけいただければ、砂糖のシロップで甘みだけを足します。お気軽に声をかけてください。
■練乳は自家製です
かき氷にこだわっている店の多くが練乳を自家製されていますが、うちでもやはり練乳は店内で仕込んでいます。
実は市販の練乳、嫌いではないどころか大好きです。パンに塗ったり、場合によってはそのまま舐めてもいいくらい。それでも練乳を自家製するのは、かき氷に合う練乳は売っているものよりずっと薄めのものだからです。
「練乳って作れるの?」と時々尋ねられますが、実は作り方は意外に簡単です。鍋に牛乳と砂糖を入れて、ひたすらかき混ぜながら1時間ほど煮詰めるだけ、手間はかかりますがシンプルな食品です。砂糖は、きび砂糖を使ったり、水飴を混ぜたりする店もあるようですが、すっきりした味を目指しているので、うちでは、グラニュー糖だけを使っています。このあたりの砂糖の使い方は、たいやきのつぶ餡を仕込むときと同じです。
練乳の甘さは、やはりつぶ餡と同様にかなり抑えて作っています。とはいえ、かき氷はいうなれば“水”なので、あまり甘さを抑え過ぎても美味しくなくなりますから、その調整が微妙なところです。
余談ですが、このように自家製の練乳を作っていることがきっかけになり、当店オジリナルの菓子「阿佐ヶ谷練乳餅」を作ることができました。
■つぶ餡はたいやきのものとベースは同じ、でも仕上げを変えています
かき氷に使っているつぶ餡は、うちのたいやきと同じ豆を使い、途中までは同じように仕込んでいます。
つぶ餡についても、かき氷専用のものを作ることも検討したのですが、ともえ庵のお客さんは、うちのたいやきの餡が美味しいと思うから来て下さっているので、違う餡を使うことはむしろ期待に添えないことだと考え、基本的には同じものを使うことにしました。
うちのたいやきの餡は厳密には「つぶし餡」だと以前に書きました。
http://www.tomoean.net/2017/05/18/70968856/
書いたように、たいやきに使うのは潰しが比較的弱い「つぶし餡」なのですが、かき氷には、ほとんど潰しがない「粒餡」を使っています。原材料の小豆や使う砂糖の種類、甘さ(糖度)は同じなのですが、より粒が残っている方がかき氷には合うので、仕上げを変えています。
エリモ小豆(この場合には「あずき」ではなく「しょうず」と読みます)を洗い、渋切りをし、ゆっくりと炊いて生餡に仕上げるまでは同じです。その後、「つぶし餡」にするためには、砂糖を加えてゆっくりと豆を潰して練っていくのですが、かき氷用の「粒餡」は、軽く混ぜて加えた砂糖が回ったら、後はゆっくりと冷ましつつ、豆に糖分を含ませて仕上げています。
ひとつだけお断りしないといけないことがあります。
たいやきの餡は、毎日朝から炊いたものを使用していますが、かき氷の餡は前日のものを使用しています。これは、完全に物理的な事情で、朝から炊いた餡が冷めるまでに時間がかかるからです。さすがに熱い餡をかき氷にかける訳にはいかないので、ひと晩冷蔵庫で温度を下げた餡を使っています。
とはいえ、冷蔵庫で冷やしていても、餡を翌々日まで持ち越すことはありませんのでご安心ください。
基本の抹茶、自家製シロップ、餡の話だけでかなり長くなってしまいました。
その他の、果物や生姜などのシロップについてはまた改めて書きたいと思います。
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