ともえ庵が目指すかき氷は、「食べて気持ちが良いかき氷」です。
もちろん、美味しいものを目指していることは言うまでもありません。ただ、美味しさには様々な方向があり、その中でうちが目指す方向が、食べて気持ちが良いことだと気づいたのです。
■かき氷の主役は氷だと考えています
気持ちの良さを言い換えると、氷を美味しく食べることになります。
口に入れた瞬間にシロップの味わいと冷たさを感じ、次の瞬間にすっと消える。シロップの味の余韻すら長く残らないすっきりしたあと口が理想です。
そもそもかき氷の主役は氷、シロップは氷を美味しくするためにあります。なので、シロップが氷より前に出ることがないようにしたいと思っています。
■氷屋さんの普通の氷を美味しく削ります
ともえ庵では、氷屋さんから普通の角氷を仕入れてかき氷を作っています。かっこ良く「純氷(じゅんぴょう)」とも呼ばれています。最近のかき氷ブームの中で「天然氷」の存在が注目されるようになっていますが、うちでは天然氷は使いません。
天然氷の質について、氷屋さんの氷に比べてはるかに良いのか、それとも違いはないのか、意見が分かれるところです。ゆっくりと凍らすことにより氷の結晶が大きく溶けにくくなるのでより薄く削れる、という話も聞いたことがありますが、本当のところはどうなのでしょうか。天然氷を作っておられる業者さんも、まったく質が違うとはおっしゃってないので、もし品質に差があったとしてもそれほど大きなものではないと思います。
品質の話を置いておいて、うちで天然氷を使わないのは、値段が高いことが理由です。
かき氷を作る際には氷を緩めます。緩めるというのは、溶け出す寸前まで温度を上げること、それをしないと細かい氷が削れないのです。そのため、どのかき氷屋さんも早い時間に冷凍庫から取り出し、表面が溶け出すくらいの状態にして削っています。
また、氷を削る際にも、氷の質が安定するまでしばらく削り、安定してから器に受け止めるようしています。
こうした贅沢な使い方ができるのは、氷の値段がそれほど高くないからです。値段が高い天然氷だと削り出した直後の氷を惜しまずに捨てることができないので、結局はかき氷の質が低下してしまいます。
天然氷ではない、氷屋さんの純氷であることが、うちのかき氷の質を保っているのです。
■かき氷機について
うちで使用しているかき氷機は、「初雪」ブランドの中部コーポレーションの電動のもの、HF-300P2です。かき氷を始めた当初は同じメーカーの初雪 HB-320Aを使っていました。この機種は削っていない時に氷を研削盤から浮かせて溶けるのを防ぐ機能が付いているのですが、微妙な削り具合の調整がに劣るので、入れ替えました。HF-300は古くからある機種なのですが、それだけに安定はバツグンで質のよい氷を削ってくれています。
かき氷機にはもうひとつ大手の池永鉄工があり、「スワン」のブランドで知られています。どちらが良いのかはかき氷屋の中でも意見が別れるところですが、うちは刃を研ぎに出せる「初雪」を使っています。
かき氷機について、もうひとつこだわっているのは電動であることです。実は以前にイベント販売で電源がとれない場所だったので「初雪」の手動のものも試したことがあるのですが、本当に氷を薄く細かく削ろうとすると手動では十分に力を伝えることができませんでした。力を十分に伝えるためには、ものすごくゆっくりと削らないといけないので、氷がなかなか溜まらず溶けてしまうのです。かき氷を溜めるために、やや刃を立て気味にせざるを得ず、電気のトルクの必要を痛感しました。
※かき氷機について、この記事の最後に追記しました(2019年4月25日)
■もちろん削り方にもこだわります
上にも書いたように氷はできるだけ“緩め”て使います。そのため、あえて安物のクーラーボックスを店内に置いています。普段はホームセンターで買ってきた小型のものを使っていますが、週末などに大量に緩める時には、コールマン社の60リットルのクーラーボックス、ただし30年近く前のものを使っています。
イベントなどで氷を運ぶ必要がある時のためにイグローのものも持っているのですが、やっぱり最新のクーラーボックスは保冷性が段違い、なので30年前のものは氷を緩めるのに最適なのです。
周囲が溶けてびしゃびしゃになるくらいにしてかき氷機にかけています。
削る際に意識しているのは、できるだけ薄く細かく、でも行き過ぎないことです。かき氷機の刃を限界まで寝かせて削ると、確かに氷は薄くなるのですが、薄すぎる氷は互いに固まろうとして木を削ったカンナ屑のように連なってしまうからです。こうなると、食感はそれほど良くなくなります。勇気を持ってこの状態より少し歯を立てるとある瞬間からカンナ屑が一気に風に舞う雪のように散り出します。この状態が口に入った瞬間にすっと消えるもっとも口溶けが良い氷です。
この細かさの氷で作ったかき氷は中段より下になると、シロップの水分を含み、とろっとしたクリームのような状態になります。練乳はもちろん、乳成分を含まない果汁や抹茶のシロップでも、クリームのようになるのが面白いところです。
■氷には触りません、つぶ餡は氷の下
器から高く盛り上がっているかき氷も素敵だと思いますが、うちでは削った氷には触らないようにしています。触って形を整えることで氷に圧力が加わり、ふわっとした感じが減ってしまうのが嫌だからです。なので、あまり高く盛り付けることができません。とはいえ、風に舞うような氷は繊維が引っかかりあうように積まれていくので、ある程度は盛り上がっています。
氷に触らないのと同じ理由で、氷の上にできるだけトッピングをしないようにしています。最近流行している“フォトジェニックメニュー”(写真映えのするメニュー)としては、トッピングがあったほうが良いのだと思いますが、重さのあるものをトッピングすると、その重みで氷が圧されてしまうので、せいぜいレモンの輪切りや砕いた果肉程度にとどめています。
最初の頃はつぶ餡は上に乗せていたのですが、餡の重みで氷が潰れるので、今では器の底に置いて上に氷を盛り付けています。指の先ほどの餡を氷の上に置いていますが、これは入っていることを示すため。お召し上がりの際には、掘り進んでください。
■「溶けすぎるかき氷」は誉め言葉です
ここまで書いてきたように、うちのかき氷は氷の薄さと細かさだけを目指しているので、すぐに溶けてしまいます。店頭でも、携帯電話で写真を何枚も撮っている人を見ると心配になるくらい見る見る溶けていくのです。
この儚さ(はかなさ)もかき氷の魅力、できるだけ早くお召し上がりいただきたいと思います。
以前に地域情報サイト『中野経済新聞』さんで、うちのかき氷のことを「溶けすぎるかき氷」と紹介していただいたことがありますが、これはうちにとって誉め言葉。付け加えるなら、記事は阿佐ヶ谷に移転する前の中野店でかき氷を始めた当初のもの。今では削る技術が上がって「もっと溶けすぎるかき氷」になっています。
https://nakano.keizai.biz/headline/274/
■言いたくないのですが、弱点もあります
氷の質に関して、正直に言うと弱点もあります。
うちの弱点は、かき氷を入れる器が使い捨てのものだということです。たい焼き屋のベンチでお盆に載せて提供させていただくスタイルだけに、ガラスの器を使うことができないのです。冷やしたガラスの器なら、少しはかき氷が溶けるのを防ぐことができ、何より見映えがいい。今後の課題だと思っています。
とはいえ、暑い中、街角のベンチで食べるかき氷は楽しく、そして美味しいもの。
ぜひお試しください。
かき氷のシロップについては別に紹介させていただきたいと思います。
※かき氷機についての追記(2019年4月25日)
上に書いたとおり、これまではあえて少し前の型のかき氷機(HF-300P)を使ってきましたが、2019年のシーズンスタートに際して、現時点の最新型のものを追加しています。
最新型の「初雪HB600A」については使い勝手や削り感を試してみたいと思いつつも、なかなか機会に恵まれなかったのですが、展示会への出展を聞きつけて訪問、展示ブースで試し削りさせていただき、すぐに導入ました。
正直にいうと、削った氷の細かさはこれまで使ってきたHF-300Pとほぼ同じです。ただし、これまでのHF-300Pでは細かく調整して氷の質を安定させなくてはならないのが、HB600Aでは短時間で狙った細かさの氷を削ることができます。
また、ハンドルの位置や形状、回転方向の変更、機体の軽量化など細部に工夫がなされ、メンテナンスも含めた使い勝手が格段に向上しました。
これにより、かき氷のMAXの品質は変わらないものの、それを安定して出しやすくなり、削り手の技量の差も埋めることができます。
もうひとつ大きいのが、鋳物部品の占める割合が多いHF-300Pの場合にどうしても生じる個体(機械)ごとの当たり外れが、HB600Aではほぼなくなったことです。メーカーの方によると切削加工で仕上げる部品を使っているので、以前の機種に比べて精度を高めることができたのが要因だそうです。
もうしばらく使ってみると見えていなかった利点や欠点が見えてくるかもしれませんが、現時点では全体的な氷の品質向上に役立っていると感じています。
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