ともえ庵のラムネ

春から秋にかけての時期、店頭の冷蔵庫には瓶入りの飲料が入っています。ラムネ、広島レモネード、げんまい飲料、どれも普通には見かけない飲み物です。

今回はこの飲み物のうち、ラムネについて紹介したいと思います。

■飲料はメーカーさんで作ってもらっています。

 うちでは、取り扱う商品をできるだけ店内で作りたいと考えています。しかし、瓶に入った飲料を作るには大掛かりな設備が必要なので、さすがに手を出すことができません。そこで、仲良くしてもらっているメーカーさんにお願いして製品を購入させていただいています。

 うちのラムネは、広島県呉市にある株式会社中元本店さんにお願いしています。古くからあるメーカーさんです。

■ラムネという飲み物について

 懐かしい飲み物の代名詞とも言えるラムネについて、すこし説明したいと思います。

 瓶に入った炭酸飲料のラムネは、戦前は日本各地に中小メーカーが多数乱立するほど人気のある飲み物で、本当にどこでも飲まれていました。

 以前にアイスクリームメーカーの赤城乳業の社長さんとお話しさせていただいた時に聞いたのですが、有名な同社の「ガリガリ君」の定番であるソーダ味、本来のソーダ水は透明なのに、「ガリガリ君」を水色にしたのはラムネの瓶のイメージからだったそうです。このことからもわかるとおり、ラムネは本当に庶民生活に根付いたものだったのです。

 ところが、戦後になってからは、全国展開する大手清涼飲料水メーカー、言ってしまえばコカ・コーラの普及により、ラムネの売上が落ち、メーカーの廃業も相次ぎました。

 実はラムネという飲み物を全国の中小メーカーが作っていた理由のひとつが、法律上の参入制限です。「中小企業分野調整法」という法律があり、ラムネは中小企業の事業分野なので大企業が参入してはいけないと決められていたのです。同じ法律で制限されていた分野は、豆腐、焼酎の割り材(博水社の「ハイサワー」みたいなもの)、チューブ状のプラスチック容器入りのアイスがあります。このチューブ容器入りのアイスは地方により呼び名が違います。チューチューやチューペット、ポッキンなどの様々な呼び名があるのは、大企業が参入しなかったことから各地域の中小メーカーの商品名がそのまま定着したためです。

 こうした規制のおかげで各地にラムネが残っていることは否めませんが、規制がなければラムネという飲み物が消滅していたのか、それともラムネを全国的に販売する大メーカーができていたのかはわからないところです。

■ラムネの語源とラムネの瓶について

 ラムネの語源は「レモネード」、言葉が変化して「ラムネ」になりました。ちなみに、同じ炭酸飲料のサイダーの語源はリンゴ酒の「シードル」です。実際に、明治時代はラムネはレモン風味、サイダーはリンゴ風味で売られていたそうなのですが、今ではどちらも無果汁の炭酸飲料になってしまいました。

 現在のラムネの最大の特徴は、独特の瓶の形状です。炭酸の圧力を使ってビー玉で栓をする独特のガラス瓶は、イギリスで発明され、明治大に日本に伝わり国産化されるようになりました。

 ただし、最近は完全にガラスでできたラムネ瓶を見ることが珍しくなっています。人件費の高騰からラムネ瓶を日本で生産することが難しくなり、1980年代には生産を台湾に移管、2000年代初頭には台湾のメーカーも生産を止めたため、現在、国内にあるオールガラスのラムネ瓶はリサイクルして使われているものだけとなったからです。

 代わって現在では、飲み口部分がプラスチックになったワンウェイ(使い捨て)の瓶が一般的に使われています。

 余談ですが、ビー玉の名前の由来については諸説があるのですが、そのうちのひとつにラムネに因んだ話があります。それによると、ラムネに使われているビー玉は本当はビー玉ではないとのことです。

もともと、ラムネに使用するためにガラス玉が作られたのですが、ラムネの栓に使えるのは高い精度で球になっているものだけ、それをA玉と呼び、歪みがある不完全なものをB玉としてはじいたそうです。そのB玉を子供の玩具にしたところ、人気を博し、ビー玉として普及したという話です。なのでラムネの中のガラス玉はA玉でありビー玉ではないということになるのです。

 本当かどうかわかりませんが、少し面白い話です。

■戦艦大和で飲まれたラムネ

 もうひとつ、ラムネの面白い話として、戦艦大和で飲まれていたという話があります。実際に戦艦大和の設計図には「ラムネ製造室」が書かれており、ラムネの製造装置を設置して、乗組員が飲む清涼飲料として艦内でラムネを作っていたそうです。

 理由はふたつあります。ひとつは戦時中の物資、特に金属の不足です。全国的に金属が不足し、鍋釜まで集めて武器を作ろうとしている時代ですから、金属の王冠が必要ないラムネが選ばれたという話があります。

 もうひとつは、軍艦では炭酸ガス消火器が使われており、そのための炭酸ガスが積み込まれていたことです。この炭酸ガス(二酸化炭素)の一部を使うことで炭酸飲料であるラムネを作ることができたのです。

 戦艦大和に限らず、第二次世界大戦の時期の日本の大型戦艦ではラムネが多く飲まれていたそうです。

 その中で広島県呉市の呉海軍工廠(海軍の工場)で建造され、呉港を母港とした戦艦大和には、地元のラムネメーカーがラムネ製造を指導し、原材料であるシロップを提供しました。それが、株式会社中元本店です。この会社は当時から変わらぬレシピでラムネの製造を続けているため、現在、販売されているラムネは戦艦大和で飲まれたものと同じ味なのです。

■ラベルはともえ庵オリジナル、でも由緒あるデザインです

 実は、ともえ庵のラムネも、この戦艦大和で飲まれたラムネと同じものです。戦艦大和、という要素も魅力的なのですが、それ以上に当時から変えることなく作り続けていること、そして当時の懐かしさをそのまま伝えていることから、仕入させていただくことにしました。

 ただし、店で楽しく飲んでいただけるよう、ラベルについてはともえ庵のオリジナルのものを用意し、メーカーで貼り付けて提供していただいています。

 オリジナルとは言いましたが、このラベルは実は中元本店さんの証紙の図案を元にデザインしたものです。証紙とは、ラムネの瓶の飲み口の部分に貼り付けられた紙のことです。1959年~68年までの間、全国のラムネ製造業者が加盟する組合主導で生産調整が行われ、ラムネには必ず証紙を貼り付けて出荷することが決められていました。その際に、中元本店さんが自社のブランドである「トビキリ」を用いて作り、使っていたのがともえ庵のラベルデザインの元となった証紙です。

中元本店で使用していた証紙です。
大蔵省印刷局の印刷物の展示のポスター、証紙を貼ったラムネ瓶と証紙が配置されています。(拡大しました)
ネットで見つけた証紙の画像、メーカごとに工夫を凝らしているのがわかります。
https://blogs.yahoo.co.jp/ena197119711971/18023681.html
中元本店の復刻版ラムネの画像。たくさん並ぶと迫力があります。(復刻版なので正式な証紙ではありません)
http://ohtobikiri.exblog.jp/m2010-08-01/

 当時のデザインならではのかっこ良さに惹かれたこと、デザインの中で伝統を引き継ぎたいという思いがあったことから、中元本店さんにお願いしてデザインをアレンジして現在のラベルを作りました。

 ともえ庵では、ラムネの魅力は美味しさではなく、懐かしさにあると思っています。なので、うちのラベルもそれなりに懐かしいデザインになっているつもりです。ラベルのデザインも含め、懐かしい気持ちを味わってください。

本物の証紙と、それをイメージしたともえ庵のラベル 

■瓶の窪みを下側にして飲んでください

 ラムネの開け方や飲み方について、若いお客さんが分からないのは当たり前です。店員に言っていただければ開けますが、やはりラムネの醍醐味は、ビー玉を落として開けることですから、ぜひ試していただきたいと思います。

 昔のラムネはビー玉を落とすための道具があり、店で開けてもらうのが普通でしたが、現在のラムネは、そのためのプラスチックの器具が最初から飲み口に付いています。輸送時に間違って開いてしまわないように付いているスペーサーを外し、器具を飲み口に押し込むとビー玉が落ちて栓が開きます。この時に炭酸が噴出しますが、驚いて手を離さず、器具を押し付け続けてください。すると、すぐに炭酸の泡が治まります。

 ラムネのメーカーの人が開けても、多少の泡が出ますから、泡がまったく出ない開け方はないと割り切ってください。(本当は、最近のラムネ瓶はプラスチックの飲み口部分を回して開けると泡が出ないのですが、かなり力がいりますし、何より風情がないのでお勧めしません)

 次に飲み方です。ラムネは普通に瓶を傾けて飲むと、せっかく落としたビー玉が飲み口に戻り、栓をしてしまいます。なので、瓶の側面にふたつ並んでいる窪みを下側にして、ビー玉を窪みに引っかけて飲んで下さい。

■ラムネのかき氷も密かに人気です

 そのまま飲んでいただいても楽しく美味しいラムネですが、ラムネを使ったかき氷も密かに人気です。

 器にあえて粗く削って下味をつけた氷を盛り付けますので、ラムネの瓶を開けて上から注いでお召し上がりください。ラムネの味と、シャクシャクした氷の食感を楽しんでいただけます。

ともえ庵のラムネのかき氷
ラムネを注いで食べていただきます。ビー玉に見立てたラムネ味の飴玉が入っています。

詳しくはホームページをご覧ください。

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