ともえ庵には、レモンを使ったメニューが意外にたくさんあります。
・かき氷「廣島大長レモンのかき氷」
・瓶飲料「廣島レモネード」
・暖かい飲料「廣島レモネード」
・月替りたいやき「廣島レモンたいやき」
また、これら以外に不定期に販売するカップ入りの「冷たい廣島レモネード」もあります。
■産地で搾ったレモン果汁を仕入れて使っています
このうち、「廣島レモンのたいやき」は、広島県産のレモンが美味しい時期である2月~3月、4月くらいの時期に出すもので、レモンの果実をそのまま使っています。
しかし、それ以外のメニューについては、レモンの旬の時期に産地で搾って冷凍保存したレモン果汁を仕入れて使っています。
レモンの果実ではなく、レモン果汁を仕入れて使っているのは、その方が美味しいからです。果実より搾った果汁のほうが美味しいというと意外に感じるかもしれませんが、これは保存の問題です。
一年中手に入る輸入レモンと違い、国内で栽培されるレモンが出荷されるのは11月から春先にかけて。レモンが新鮮な時期であれば、果実を仕入れて搾ればよいのですが、それ以外の時期は果実を冷凍保存しておいても、酸味が減り味が薄くなってしまいます。それよりは、旬の果実を絞ったものの方がはるかに美味しいのです。
■今では貴重な国産レモン
レモンはヒマラヤが原産ですが、現在は世界の多くの国に伝わっています。ただし、温暖な気候を好む柑橘類ですので、生産は比較的温度が高い国でなされています。ヨーロッパでシチリア産のレモンが有名なのは比較的南部で暖かいからです。
現在は、中国やインド、メキシコなどで栽培がなされていますが、日本への輸入を見るとアメリカ、チリといった国からのものが多くなっています。
日本国内には明治時代に持ち込まれ、明治後期から現在の主要な産地である瀬戸内の地域での栽培がされたようです。
現在の、国産のレモンの最大の産地は広島県、次いで愛媛県となっており、やはり瀬戸内エリアでの栽培が多くなっていますが、輸入される量に比べるとわずかなので、国産レモンは貴重品となっています。それでも、輸入レモンの残留農薬への懸念が高まったこともあり、最近では生産量が伸びてきています。
国産レモンの流通量が少ないのは現在のことで、1960年代以前、柑橘類の輸入に制限があった頃には、今よりも多くのレモンが流通していたようです。また、後で詳しく書きますが、大正時代には広島県で作られたレモンがアメリカに輸出されていたこともあったそうです。
■「瀬戸内レモン」は広島のレモンではありません
国内のレモンをもっとも生産しているのが広島県。その中でも、大長(おおちょう)地区、大崎下島(呉市)、瀬戸田(尾道市)が有力な産地です。
現在は、広島県がPRに力を入れてきたこともあり、広島県産のレモンは現在は品薄状態にあり、大量に入手することが難しくなっています。なので、広島県と隣接または対面する愛媛県などのレモンを合わせて「瀬戸内レモン」と呼び、流通するようになってきています。
数日前に広島に行き、帰りに広島駅構内の売店で売られているお土産物を見ていたのですが、「広島レモン」と「せとうち(瀬戸内)レモン」のものが両方ありました。当たり前のことですが、広島で売るのなら「広島レモン」の方が売れるので、「瀬戸内レモン」のものは広島産のレモンが入手できなかったのだと思います。
全国的に見ても、やはり認知されているブランドとしては「広島レモン」のほうが上なので、今後はともかく、今現在の「瀬戸内レモン」には広島のレモンは使われていないと考えるべきでしょう。
ただし、例えば広島県と愛媛県でそれほどレモンの味が変わるとは思えません。廣島だけしかできない特別な栽培方法や加工、保管方法があるとは聞いていないからです。
例えば、魚などの場合には、地域名を付けてブランド化するためには漁法や締め方などについて、他の地域(漁港)とは違ったものを採用し、管理することで差別化しています。しかし知る限りですが、レモンについては広島とその他の地域での差はないように感じています。
もちろん、気候による差は出てくると思うので、遠く離れた地域と、広島を含む瀬戸内産のレモンの味には違いがあると思っています。
■輸入レモンと国産レモンの味の差
国内の産地間はともかく、国産レモンと輸入レモンの味の差はかなりあります。
近年、国産レモンの人気が高まっていますが、もともとは残留農薬への意識がそのきっかけでした。海外から船で運ぶ輸入レモンは輸送中の長い期間を保存するため、果実の採取後に使う“ポストハーベスト農薬”が使用されています。皮などに残った農薬が口に入る懸念があることを気にする人が増えたため、ポストハーベスト農薬が使われることがない国産レモンへの注目が高まったのです。
でも、実際には味も違います。国産でも輸入でもレモンが酸っぱいことは同じなのですが、国産レモンのほうが糖度が高く、口にすると味が濃く感じられるのです。輸入レモンも産地による違いはありますが、一般的には国産のものの方が1~2度くらい糖度が高いそうです。
産地から運ばれる期間の差もありますが、柑橘類の場合、時間が経つと酸味が減少することはあっても、糖度が落ちることはないはずなので、もともと国産レモンの方が糖度が高いのではないかと思います。
さらに果汁には、もっと大きな違いがあります。レモンに限らず、多くの輸入果汁は濃縮果汁還元といって、一度水分を飛ばして濃縮して運搬、その後に水分を足して元の濃さに戻すという製法がとられているからです。
対して、国内流通のみの国産のレモン果汁はストレート果汁、つまり搾ったままの果汁です。濃縮する際に風味が飛ぶことがないので、味に加えて香りも全然違います。
実は、かき氷を商品化する前に試作していた時、最初は大手メーカーのレモン果汁を買って作ってみました。それなりに美味しいものはできたのですが、その後に試作した広島レモンのストレート果汁のものと比べて驚きました。差は出ると思っていたのですが、“差”などというレベルではなく、まったく違った食べ物と言えるくらい違ったものだったからです。
輸入レモンの果汁は値段も安く、料理に少しだけ酸味を足す時などに便利に使えますが、レモン果汁がメインになる食べ物には国産レモンのストレート果汁しか使えないと思いました。
■ともえ庵では広島県大長地区のレモン果汁を使っています
ともえ庵では、レモンの果汁については一貫して広島県大長地区のものを使っています。果実をそのまま使うメニューについても基本的には大長地区のもの、仕入の都合でどうしても入手できなかった場合のみ、大長以外の地域の広島県産のものを使うことがあります。
ただし、かき氷に添えている輪切りのレモンの砂糖漬けだけは、広島県以外の国産のレモンを使うこともあります。保存の利く果汁と違い、かき氷の最盛期の真夏には出回る国産のレモンが極端に減ってしまうからです。どうしても国産のレモンが入手できない場合には、レモンの輪切りを添えること自体を休ませていただいています。
先ほど説明した通り、現在では広島のレモンやレモン果汁はかなり貴重なものとなっており、安定した価格で仕入れるのが難しくなっています。しかも、ともえ庵はチェーンではない単独店、量が少ないので交渉して仕入れてくることはできません。なのに、品質が良い産地のレモンやレモン果汁を仕入れることができているのは、本当に有難いことです。
■大長のレモン果汁が仕入れられるようになったいきさつ
ともえ庵で使っているレモン果汁は、広島県呉市の大長地区のもの、地元のJA(農業協同組合)で作っています。ただし、小さな店が直接仕入れることはできないので、呉市にある株式会社中元本店さんを通じて仕入れさせていただいています。
中元本店さんはもともとラムネのメーカー。戦艦大和で飲まれていたラムネを作っていました。(このラムネは、夏の時期にはともえ庵でも販売しています。詳しくは、ブログ記事「ともえ庵のラムネ」をご覧ください)
以前のブログ記事にも書いたように、ラムネの語源は「レモネード」ということもあり、大正時代に広島からアメリカに輸出されていたレモンに添えられていた「レモネード」のレシピを再現して商品化しようということになりました。10年以上前のことです。
その頃は、ともえ庵の開業前なのですが、実は当時から中元本店さんとお付き合いがあったともえ庵のスタッフが中元本店さんのスタッフさんと相談しながら味を決め、一緒に商品化したのです。それが「大正檸檬」という名のレモネードでした。
国産のレモン果汁、砂糖、水というシンプルな組み合わせ、あえて薄めに仕上げた飲みやすさ、当時としては新鮮な飲料になりました。まだ、某社の「はちみつレモン」という飲料のヒットを引きずり、レモンに合わせる甘味料ははちみつだと誰もが普通に考えていた時代だったので、べたつかないあっさりとした飲み口という逆の方向は珍しかったのかもしれません。
当時は、広島レモンの果実は多少売れていたものの今とは比べ物にならないくらいの状態で、ましてや果汁を仕入れて商品化するという動きはほぼありませんでした。その時期に果汁を仕入れたので、地元の農協ではたいそう喜ばれました。
「大正檸檬」は大ヒットこそしませんでしたが、定番となり、今も安定して売れ続けています。さらに「大正檸檬」を見て、中元本店さんと付き合いがあった地元の老舗の調味料メーカーや全国展開する大手酒造メーカーがレモン果汁を使った商品開発をしたり、広島の有名ベーカリーの直営レストランで使うようになり、大長のレモン果汁の人気が高まりました。
ちょうどその後、広島県が地元の産品として「広島レモン」を大々的にアピールしたこともあり、レモン果汁も人気となり、現在では品薄でなかなか仕入が難しい状況になっています。
それでも地元のJAは、「人気がない頃から仕入れ、きっかけを作ってくれた」中元本店さんには感謝しており、優先的に販売してくれているそうです。
また、中元本店さんも、最初の段階から商品の企画に携わったともえ庵との縁を重視して下さっています。本来、中元本店さんは飲料のメーカーなので、原材料である果汁をそのまま卸売することはないのですが、ともえ庵にだけは特別にJAから仕入れたレモン果汁を小分けして卸売りして下さっているのです。
単純に値段だけを追えばもっと条件の良い取引先があるだろうにも関わらず、最初に世に出した恩や信頼関係で取引がなされ、それが重なっていく。その末端にともえ庵があることは本当に有難いことと、感謝しています。
■廣島大長レモンのかき氷について
このようにしてともえ庵に届けられたレモン果汁の甘さを少しだけ調整して作っているのが「廣島大長レモンのかき氷」、酸味とレモンの味の濃さを感じていただけるかと思います。
口の中ですっと消える氷と爽やかな甘みを抑えた酸味とコクは、カップアイスとして売っている輪切りレモンが入ったレモンのかき氷を究極的に美味しくしたものという感じに仕上がっています。
ダラダラと汗を流すような日には体が欲する味ですから、ぜひお試しください。あと、もうひとつ実はお勧めなのが、お酒を飲んだ後です。以前に足元がおぼつかないくらいワインを飲み過ぎた後に、この「廣島大長レモンのかき氷(大)」を食べたところ、本当にシャキーンといった感じで酔いが飛び、しっかりとした足取りで帰ることができたくらいです。
なお、大人が召し上がることを意識して甘さを抑えた仕上げにしていますので、食べてみて酸っぱすぎる場合にはおっしゃってください。後から甘みを加えます。
■廣島レモネードについて
ともえ庵の店頭に置かれている冷蔵ショーケース、夏場に瓶入りの「ラムネ」、「げんまい飲料」とともに並んでいるのが「廣島レモネード」です。
ここまで読んでいただき、勘の良い方はお気づきかもしれませんが、この「廣島レモネード」は、先ほど紹介した中元本店さんの「大正檸檬」と同じもの。東京にあるともえ庵で販売するために独自のラベルにして並べています。
先ほども紹介しましたが、さっぱりとした飲みやすさを求め、レモン果汁、砂糖、水というシンプルな材料で、添加物を一切使用せずに作っています。暑い時期に一気に飲んでいただいたり、冬場には電子レンジで温めてホットレモネードとしてお召し上がったりしていただけます。広島近県以外ではおそらくうちだけの販売ですので、お試しください。
また、冬場のカップ入りのホットレモネード、夏場に時々販売するカップ入りのレモネードは、瓶入りではありませんが、店の中でレモン果汁と砂糖、水(湯)で作っているものなので、基本的には同じものです。冬場はゆっくりと召し上がっていただけるよう、やや濃いめの味付けにして仕上げています。
ともえ庵でもっとも特徴的なレモンのメニューは、やはり「廣島レモンのたいやき」です。餡にレモンの果肉とやわらかくなるまで何度も茹でこぼしたレモンピール(皮)を加えたこのたいやきについては、改めてご紹介したいと思います。
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