信州あんずたいやき

 秋から次の春にかけて毎月出させていただいている「月替りたいやき」ですが、例外的に2017年7~8月は新しいメニュー「信州あんずたいやき」を出します。

■本当は「信州あんずのかき氷」を作るつもりでした。

 あんずは、ご存知でしょうか。少し年配の方だと一般的な果物なのですが、若い人にはあまりなじみがないかもしれません。

 簡単に説明すると、黄色い実の“小ぶりの桃”というか、“大ぶりの梅”というか・・・。とにかくそんな感じの果実です。生食用の種類もない訳ではないのですが、多くはシロップ漬けにしたり、コンポートやジャムに加工されることがよくあります。あんずジャムというより、アプリコットジャムといった方が知られているかもしれません。

また、ドライフルーツとしても用いられています。干しあんずを甘露煮にしたものは昔ながらのお弁当などに添えられており、駅弁では有名な荻野屋さんの「峠の釜めし」や、崎陽軒さんのシウマイ弁当にも入っています。

 あんずは桃に似ていますが、桃ほど甘さはなく酸味が特徴です。ともえ庵では、甘みが主体の桃は調理した際に特徴が出ないので、かき氷にしないと決めているのですが、桃の風味自体は好きなので、桃に近く酸味があるあんずを試してみたいと思っていました。

試しに仕込んでみると、思っている以上に酸味が際立っています。かき氷もさることながら、まずはたいやきに使ってみたいと考えて、そこから試作を繰り返し、今回提供できるようになったのです。

仕込み前のあんず(信州大実)

■あんずについて

 あんずは、中国北部や中央アジアが原産とされています。もともとは、あんずの種の仁に薬効があるとされたことから、漢方薬の材料として広く栽培されていました。なお、このあんずの仁を材料に作る菓子が杏仁豆腐です。一般的には「あんにんどうふ」と呼ばれていますが、「きょうにんどうふ」というのが正しい読み方です。

 日本でも平安時代にはこの杏仁が使われていたとの記録が残っているそうなのですが、果実を食べるようになったのはずっと後のことで、食用に栽培されるようになったのは大正時代からといわれています。

 現在、日本国内でのあんずの産地は、青森県、長野県で、両県でほとんどを占めています。(参考:果物ナビ)http://www.kudamononavi.com/zukan/apricot.htm

■あんずの仕込みについて

 あんずは、基本的には加工して食べることが多い果実ですが、生食ができる品種もあります。ともえ庵で今年使っている「信州大実」という品種は比較的大粒で生食、加工を兼用する品種です。

 生食ができることから、最初はそのまま使おうと試してみたのですが、一旦シロップに漬けた方が酸味が際立ち、果肉もとろけるような食感になることがわかりました。缶詰で使われるシロップ漬け、単に保存性の問題だと思っていたのですが、漬けることでここまで美味しくなるのは意外でした。

ですから、「信州あんずたいやき」では、半分に割って種を取り出した実を砂糖のシロップに漬けたものを使うようにしています。

 国産のあんずが出回るのは、7月上旬だけ。わずかの期間なので、この時期に仕込まないと作ることができません。輸入物の干しあんずや缶詰のものであれば年中手に入りますが、やはり生のあんずから仕込んで、浅いシロップ漬けにしたものとは味がまったく違います。

シロップ漬けにすることで、あんずの酸味が際立ち、果肉がとろけます

■意外に苦労してあんずを入れています

「信州あんずたいやき」は、たいやきの中にあんずをまるまる一個分入れて焼き上げています。たいやきの形状に合わせて、半割にしてシロップ漬けにした実を2つ並べて焼くのですが、これが難しく、誰でも焼けるものではありません。

 ハシ(たいやきの型)にコナ(皮になる小麦粉)を敷き、薄くつぶ餡を載せます。その上に半割のあんず2つを並べ、さらに薄くつぶ餡をかぶせ、その上にコナをかけて火に入れる。写真で見ると、あんずが大きくてたいやきに収まらないように感じると思います。実際には、シロップ漬けしたあんずはかなりやわらかいので、押しつぶすように詰めることができます。

たいやきに合わせて、やや小ぶりのあんずを使っているのですが、それでも配分を間違うとあんずがはみ出てしまい、たいやきに仕上がりません。たいやきや白玉たいやきを焼く経験を十分に積んだ職人でないとなかなか仕上げが難しいのです。

たいやきに入りきらないように見えますが、あんずが軟らかいので潰れて入ります。
(実際に焼いた過程の写真なので、どこかのハンバーガーの見本写真とは違います)

■甘さを抑えたつぶ餡にあんずの酸味ととろける食感が合います

 ともえ庵のたいやきは、和の菓子であることを意識して、「つぶ餡に合うこと」を前提に作っています。つぶ餡に合うために必要なのは甘さではなく、酸味や苦み、食感などの“個性”です。シロップ漬けにした信州あんずのさわやかな酸味は、甘みを抑えたつぶ餡にぴったり、十分に個性を発揮しています。

 また、焼きたて熱々のたいやきの中で、瑞々しくとろけるようになる食感もやはり魅力的な個性となっています。

 昔は日本中で菓子の材料として広く食べられていたあんず、改めて和の菓子に合う魅力を感じていただければと思います。

■食べていただく際の注意

「信州あんずのたいやき」のあんずは瑞々しく仕上がっています。でも、それは水分を多く含んでいるということ。水分は時間が経つと皮を湿らせてしまうので、「白玉たいやき」と同様に、あまり長時間の持ち歩きは向きません。できるだけご購入後10分以内にお召し上がりください。

 また、焼き置きをしていませんので、注文をいただいてから焼きますので、7~10分程度、お待ちいただきます。

 焼き上がりを待たなければならず、持ち帰りもままならない。少し不便なメニューですが、他にないそれだけの味は出せているつもりですので、ご理解ください。

 もうひとつ、今年(2017年)は、月替りとしては変則の販売期間にさせていただきます。7月17日(月)~8月3日(木)まで。

8月5日からは、地元の阿佐ヶ谷パールセンター商店街の「阿佐ヶ谷七夕まつり」が始まるためです。こちらもご了承ください。

■この後、「信州あんずのかき氷」も出る予定です

 シロップ漬けにして仕込んだあんず、もう少し漬けるとシロップにあんずの風味が出て、かき氷のシロップとして美味しくなります。あんずの風味たっぷりのシロップとあんずの果肉が楽しめる「信州あんずのかき氷」、もう少しだけお待ちください。

 ただ、あんずの仕込み量に限りがあります。「信州あんずたいやき」が予想以上に人気になってしまうと、今年のかき氷は見送らなければならないかもしれません。

たいやきが人気になって欲しい気持ちと、かき氷を出したい気持ち。少し揺れながら、日々の仕込みをしています。

 ともえ庵のあんず、よろしくお願いします。

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【2018年7月 追記】

 2018年より「信州あんずたいやき」に使うあんずが、「昭和」種に変更しました。加工用の品種で酸味が強いのが特徴です。

生食もできる「信州大実」に比べて少しだけサイズが小さいのですが、よりたいやきの中で味が際立っています。

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【2020年7月 追記】

 2020年は「新潟大実」種の杏を使います。以前に使っていた「昭和」種と同様、加工用の品種で酸味が強いのが特徴。さらに名前のとおり実が大きいので、食べがいが増しました。

名前に新潟と入っていますが、栽培されているのは長野県、信州です。

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