本年も「全国一丁焼きのたい焼き店調査」を行いましたので、その結果をお知らせします。
今回の調査では、全体の数が増えて133店になり、チェーン店化が進展していることがわかりました。
■「天然もののたい焼き」について
ご存知の方も多いと思いますが、たいやき愛好家の方々は、ひとつの金型で一匹ずつ焼く「一丁焼き」のたい焼きのことを「天然もの」、5~6匹分のたい焼きの金型が鉄板状に連なり、まとめて焼く量産タイプのたい焼きを「養殖もの」と呼ばれています。
※たいやきの「天然」と「養殖」についてはこちらをご一読ください。https://tomoean.net/blog/taiyaki/958/
この一丁焼きのたい焼きを焼く店は全国でどれくらいあるのか、お客さんにもよく尋ねられるので、正確な数を知りたくて昨年から始めたのが「全国一丁焼きのたい焼き店調査」です。
今年も調査を行い、情報を更新しましたので紹介いたします。
※注意
一丁焼きのたい焼きを「天然もの」と呼ぶのは通称のようなものなので、厳密な定義はありません。
宮嶋康彦さんというカメラマンの方が2002年に出された『たい焼の魚拓』という本の中で、一丁焼きのたい焼きを「天然もののたい焼き」と表現され、共感したたい焼き好きの中で定着したとされています。
調査の際に、区別をつける必要があるため、この調査では一匹ずつの金型に取っ手がついた道具(うちでは「ハシ」と呼んでいます)で焼くたい焼き店のみを対象としました。
二匹ずつの型で焼かれるお店で、「天然もの」とされている店が何店舗かあるのですが、一丁焼きではないので、対象から除外しています。
■調査結果
調査の方法、全国の一丁焼きのたい焼き店一覧表(2018年9月末現在)については、たいやき ともえ庵のホームページに掲載しました。
http://www.tomoean.net/icchoyaki_ichiran2018/
以下に一覧を元にした簡単な分析を紹介します。
1.一丁焼きのたい焼きの総数と増減
●総数 全国で133店が所在
調査時点(2018年9月下旬)での、全国一丁焼きのたい焼き店の総数は133店でした。
なお、この他に台湾に「若葉鯛魚焼」さんがあります。現在把握している中では国外唯一の一丁焼きのたい焼き店です。
前回調査(2017年5月初旬)の調査では国内108店でしたが、埼玉県所沢市の「OHANA COFFEE」さんの情報が漏れていることが分り、109店でしたから、24店が増加しています。
●増えたのは29店、すべて鳴門鯛焼本舗
前回調査からの間で増えた新規の店舗は29店、驚くことに、すべてがチェーン展開されている「鳴門鯛焼本舗」さんの新規出店によるものでした。
現在、「鳴門鯛焼本舗」さんの店舗は59店、国内全体の約44%が「鳴門鯛焼本舗」さんになっています。1年半に満たない間にほぼ倍の店舗数になっています。普通のたい焼きに比べて焼くのが難しい一丁焼きのたい焼きとしては、異例の拡大スピードです。
逆に、前回の調査では比較的新しい独立系の一丁焼きのたい焼き店が見られたのですが、この間は新規の開店が途絶えています。
●閉店は5店
一部、 店舗を移転されている店はあるものの、単独店の新規出店はありませんでした。
逆に、閉店されたのは以下の5店舗です。
・大塚や(秋田県秋田市)
・たいやき たいち(東京都台東区)
・たいやきの夢(東京都北区)
・千福(東京都東村山市)
・宮田のたいやき(富山県高岡市)
このうち、「たいやきの夢」さんは、もともと移動販売で営業されているので、厳密に閉店されたのかどうかは不明ですが、最近の情報がないため、閉店と分類しています。
富山県高岡市の人気店だった「宮田のたいやき」さんも2018年6月末で閉店されたとのことです。かなり以前に伺ったことがあるのですが、ややご高齢のご夫婦(だと思われる)がやってられました。伺った時には女性が焼いて、男性が接客をされていたのが印象に残っています。
「たいやき たいち」さんは、老舗の「根津のたいやき」の先代のご長男さんが2011年9月に創業したお店だそうです。谷中銀座商店街から脇道に入ったところにある店で、たいやき店には珍しく、食券を買って注文する方法に驚きました。ネットの情報を調べると、店主さんが体を壊されて閉店されたそうです。
2.一丁焼きのたい焼きの都道府県別の分布
●東京都、大阪府とその周辺への集中が高まる
一丁焼きのたい焼き店は、25都道府県に所在しています。22県には1店も一丁焼きのたいやき店がありません。前回調査と比べて、一丁焼きのたい焼き店がある県に福岡県が加わっています。
なお、福岡県、京都府は鳴門鯛焼本舗さんの店舗が各1店あるだけで、独立した店舗はありません。また、埼玉県は喫茶店をメインしつつたい焼きも売っている店2店の他は「鳴門鯛焼本舗」さんの店が3店舗あるだけなので、独立系のたい焼き店らしい店はない状況です。
一丁焼きのたい焼き店はやはり人口が集中している東京都、大阪府とその周辺に多く所在しています。前回の調査以降、上にも書いたように多く新規出店されている「鳴門鯛焼本舗」さんの店が都市部に集中していることもあり、都市部の比率が高くなっています。
この結果、前回調査で一丁焼きのたい焼き店の数で第三位だった三重県の店舗数を兵庫県が上回りました。
なお、「鳴門鯛焼本舗」さんを除くと、大阪府、兵庫県とも各2店舗のみとなっています。大阪府の2店舗のうち1店は「大阪浪花屋」さんですので、独立系の一丁焼きのたい焼き店は1店舗「招き猫餡舗」さんのみになります。
●地方ながら突出して店舗数が多い三重県
前回の調査でも指摘しましたが、地方では三重県に8店の一丁焼きのたい焼き店があり、チェーン店ではない独立系の店舗ばかりだというのが目立ちます。
もともと三重県には、ゆであずきやあずきバーで有名な「井村屋グループ株式会社」(津市)さんや、赤福餅の「株式会社赤福」(伊勢市)などがあるとおり、和菓子や和の駄菓子の店が生まれやすい環境にあったのかもしれません。
たい焼きの発祥については諸説ありますが、三重県発祥説があるのもうなづける結果です。
【一丁焼きのたい焼き店が多く所在している県】
一位:東京都 42店(36店)
二位:大阪府 22店(14店)
三位:兵庫県 11店(7店)
四位:三重県 8店(8店)
五位:千葉県、神奈川県 6店(5店)
七位:埼玉県 5店(2店)
八位:長野県、鳥取県 4店(4店)
愛知県 4店(3店)
※( )内は前回調査時点の店舗数
●20県には一丁焼きのたい焼き店はなし。四国はゼロ、九州は1店のみ
一丁焼きのたい焼き店の存在が確認できなかったのは、以下の22県です。
九州地方は、福岡県に1店の出店があったものの、それ以外の県には見られませんでした。四国にも一丁焼きのたい焼き店は1軒もありません。やはり寒い時期に売上が伸びるたい焼きは南のほうの県との相性は良くないのかもしれません。
一方で、気温が低くても一丁焼きのたい焼き店がない県もあります。特に仙台市、金沢市という大都市を抱える宮城県、石川県にないのが面白いところです。また、秋田県は前回調査時点で1店だけだった「大塚や」さんが閉店したので、一丁焼きのたい焼きがない県になりました。
その他、奈良県は近年、かき氷による地域おこしが成功し、夏場にはかき氷目当ての観光客が数多く訪れるまでになっていますが、季節の棲み分けからかき氷と相性の良い、一丁焼きのたい焼き店がないのは面白いところです。
【一丁焼きのたい焼き店が所在していない県】
東北地方:青森県、宮城県、秋田県、福島県
関東地方:群馬県
中部地方:石川県、山梨県
近畿地方:滋賀県、奈良県、和歌山県
中国地方:島根県
四国地方:徳島県、香川県、愛媛県、高知県
九州・沖縄地方:佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県
3.チェーン展開の状況
●鳴門鯛焼本舗が圧倒的多数に
上にも記載したとおり、前会長からの間にほぼ倍の59店に拡大した「鳴門鯛焼本舗」さんが圧倒的多数になっています。
一丁焼きのたい焼き業界でもっとも有名な「浪花屋」さんのグループが14店なので、「鳴門鯛焼本舗」さんの店舗数の多さがわかります。ちなみに、「たい焼き御三家」として知られる他の二店は、「わかば」さんが3店舗、「柳屋」さんが2店舗でした。
一丁焼きのたい焼き店は、個人経営の単独店が多いので、これら以外で複数店を展開されているのは、愛知県の「澤屋」さんが2店舗やってられるくらいになっています。
※「わかば」さんについては、台湾に「若葉総本店(若葉鯛魚焼)」さんがありますが、のれん分けとは認めておられないようなのでカウントしていません。また、この調査は国内に限定しているので、「若葉総本店(若葉鯛魚焼)」さんは一覧表に掲載していません。
「鳴門鯛焼本舗」さんがこれほど多数の出店をされているのは、もともと母体となる会社がたこ焼き・お好み焼きの店舗をもっとたくさん展開されており、出店に要するノウハウと財務的な資源があったことに加え、フランチャイズシステムにより従業員さんを独立させていく仕組みがあるからだと推察できます。
それに対して、他の老舗たい焼き店は従業員さんへの「のれん分け」や、親族による支店の出店がなされてきたため、チェーンといっても結びつきが強くないことも多く、規模が小さくなっています。
4.一丁焼きのたい焼きの値段
●値上がり傾向を見せ、180円が新しいラインになる兆し
価格を把握できている129店舗の一丁焼きのたい焼きの平均価格は160.3円でした。前回の調査では140.1円だったので約20円の値上がりとなっています。
一丁焼きのたい焼きは、通常の量産式のたい焼きに比べて値段がやや高くなっていますが、それでも頻繁に値上げされるものではありませんでした。しかし、もっとも原料に占める割合が高い小豆の価格が、昨年、今年と連続して上昇したこともあり、いくつかの店で価格改定(値上げ)がなされました。
特に、店舗数が多い「鳴門鯛焼本舗」さんが20円の値上げをされたことが、平均に大きく影響を与えていますが、老舗の「浪花屋総本店」さんが値上げをされたことで、他のたい焼き店が追随しやすくなったことも理由のひとつです。
なお、この調査を行っている「たいやき
ともえ庵」も今年2月に値上げをさせていただいています。
これらの値上げをしたたい焼き店の多くが180円という価格設定をしているため、今後しばらくは、一丁焼きのたい焼きの相場は一匹180円になると見られています。
※平均価格は、つぶあんが入った普通の一丁焼きのたい焼きの価格が把握できた129店の平均を算出しています。各店の表示をそのまま計算したため、税込、税別の違い等から多少のずれが生じている場合もあります。
●高い店は200円、安い店は90円
普通のつぶあんのたい焼きの値段の最高額は200円で、「liko」(北海道)さん、「甘味処たかね」(東京)さん、「丸子峠鯛焼き屋」(静岡)さんです。
逆にもっとも安いのは、前回調査と同様に90円の「たいやき むらさきや」(愛知県)さんでした。また、それに次いで安い100円の店は、これも前回と同様に、岐阜県「福丸」さん、兵庫県「小椋商店」さん、「たいやき 松川」さん、鳥取県「らっぱや
大谷商店」さん、「米澤たいやき店」の計5店舗でした。
この中で、「福丸」さんは、店舗を移転されたにも関わらず、値段を維持されています。
量産型のたい焼き店は、中身のレパートリーが広いことが一般的です。様々な味の餡やカスタードクリーム、チーズ、お好み焼きの具など、餡のメーカーさんや各店の工夫による結果です。
それに対して、一丁焼きのたい焼き店は、伝統的なたいやきのスタイルにこだわり、国産の小豆を店内で炊いてつぶあんを作って提供している店が多く、そのこだわりから中身の種類はあまりないのが一般的です。
その中でも、工夫して付加価値の高いたい焼きを作っている店もあり、その場合にはつぶあんだけのたい焼きよりやや価格が高くなっているのが普通です。
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