熱々のたいやきと冷たいアイスのとりあわせ「練乳アイスたいやき」を作りました

焼きたて熱々のたいやきに練乳味のアイスを挟んだ「練乳アイスたいやき」を作りました。熱さと冷たさのコントラストが美味しいたいやきです。また、熱いたいやきに挟まれても溶けそうで溶けない練乳アイスが特徴です。

とはいえ、美味しい、美味しくない以前にまわりの人からは「ともえ庵らしくない」という意見が出るこのメニュー。実は当店でないとできない、たいやき
ともえ庵らしいメニューでもあるのです。

■夏場はたい焼き店にとって地獄の季節

 当店に限らずたい焼き店にとって夏はかなり苦しい季節です。職人が立つ焼き台はかなりの高温になります。当店はスポットエアコンで焼き手の頭の上から冷気を下ろしているのですが、そんなことでは間に合わないくらいの暑さ、水分補給をしないと倒れてしまいそうになるくらいです。

 でも、それ以上に堪えるのはお客さんが減ってしまうこと。熱々のたいやきは寒い季節の方が美味しいですから、真夏の売上が減るのは止むを得ないことです。しかし、そのことは理解しつつも、同じ時間店を開けてたいやきを焼いてもお客さんが少ないと経営的にも大変ですし、何より気持ちが凹みます。

 昔のたい焼き屋さんは夏場は休みにする店が少なくなかったと聞いています。店を開けていてもあまり売れない上に焼き場は灼熱となると、しっかり休んでその分を冬に稼いだ方がよいからです。今でも地方で古くからやってられるたい焼き屋さんには夏場に休まれているところがあります。

 とはいえ、現代の多くの店はそんなに休むことができません。店を借りている場合には家賃がかかり、人を雇っている場合には人件費がかかるからです。少ないなりにも売上を立てないと店を続けていくことはできません。

■かき氷が売れているたい焼き店は少ない

 そのため、多くのたい焼き店は夏場に売れるメニューを工夫されています。わかりやすいのは、昔ながらのモナカアイスやかき氷でしょうか。

 ただ、やはり本業はたい焼き屋となるとたい焼き以外のものを売るのはかなり難しいのかもしれません。ここ数年はかき氷ブームが続いていますが、たい焼き店でかき氷である程度知られているのは浪花家さんのグループの浪花屋浅草さんくらいです。他のたい焼き店はかき氷をを出していても、それほど知られていません。

 たいやき ともえ庵も、夏場のかき氷には力を入れてきました。氷の品質、シロップの素材や加工に力を入れているおかげで、阿佐ヶ谷の商店街で毎年8月に開催される「阿佐ヶ谷七夕まつり」では、期間中に二千数百杯のかき氷を出させていただくくらいです。ただ、扉もテーブルもない、たいやき店の片隅のベンチでかき氷を食べる店ですので、本格的なかき氷の店とはあまり思っていただけていないのが実情です。

本当はかき氷にもかなり力を入れています

■“夏に売れるたい焼き”の悪戦苦闘

 そこで各店は色々と“夏に売れるたい焼き”を試行錯誤することになります。

とはいえ、“夏に売れるたい焼き”は簡単ではありません。小豆を使った菓子が夏には売れないことに加えて、温かくないと美味しくないたい焼きですから、普通に考えたら暑い季節に売れるはずがありません。

毎年、どこかのたい焼き店が出すのが「冷やしたい焼き」のようなものです。暑くて売れないなら、冷たい菓子に仕立てようという試みです。

普通のたい焼きをそのまま冷やすという訳にはいきません。冷やすとと皮が固くなってしまい、またつぶあんを凍らせると、皆さんご存知のあずきのバーアイスのようにガチガチに硬くなってしまうので、とても食べられなくなるからです。

ある店はパンケーキのような軟らかい皮にしてそのまま凍らせる、ある店はいまでは懐かしい「白いたい焼き」のタピオカ生地を使って冷蔵する。中身もつぶあんではなく、カスタードやチョコレート、果物のソースのようなものなど、色々な店が工夫されてきました。

しかし、残念ながら成功した店はありません。もともと熱い菓子を単純に冷たくしても美味しくなるはずがないからです。

 たいやき ともえ庵では、夏場の月替りたいやきとして、夏っぽい素材の「ずんだ白玉たいやき」や、果物の酸味が味わえる「信州あんずたいやき」「生ぶどうたいやき」「小布施青りんごたいやき」をお出ししています。

有難いことにどれもかなり人気のメニューになっていますが、定番のたいやきの夏場の落ち込みはそれ以上で、やはり“夏に売れるたい焼き”は難しいと実感してきました。

■たい焼きとアイスクリームは合うのか?

 こうした状況の中、「夏にたい焼きが売れないなら、夏に売れるアイスクリーム(ソフトクリーム)と合わせればいい」とばかりに発想を転換した、たい焼きが出てきています。

 特に近年、ネットなどで話題になることが多いのが、「たい焼きパフェ」等の呼び名で呼ばれる大きく口を開けたたい焼きの上にソフトクリームを盛り付けたものです。ソフトクリームのコーンの部分がたい焼きになっていると言った方がわかりやすいでしょうか。 盛り付けを飾ることで、映えるとして日本だけでなく、海外でも話題になったようです。

 ただ、上部がソフトクリームなので、熱々のたい焼きを使うことができないこと、ソフトクリームとたい焼きを一緒に食べるというより、順番に食べるようになるというところが弱点かもしれません。

たい焼きが大口を開けて上を向いている「たい焼きパフェ」(写真はネットから拝借しました)

 もうひとつ、むしろそっちのほうが古くからあるのですが、ソフトクリームとのとり合せて有名なのが「ひいらぎ」さんの「たいやきソフト」です。透明なカップに入ったソフトクリームにたい焼きが頭から飛び込んでいるような、何と言うか豪快なメニューです。

 見た目のインパクトがあるからか、簡単に作れそうに見えるからか、他の店でもまねているところがあるようですが、これはひいらぎさんならではのものだと思います。

というのは、ひいらぎさんはたい焼き自体がかなり特徴的だからです。30分以上かけて焼かれるたい焼きの皮は、パリっとを通り越してカリっと仕上がっています。そのため、簡単にはふやけることがないので、ソフトクリームに突っ込むことができるのです。おそらく他の店のたい焼きで同じことをすると、すぐに皮がふやけて美味しくなくなってしまいます。もちろん、当店のたいやきも同じです。皮が薄いのですぐにダメになると思います。

 ですから「たいやきソフト」はひいらぎさんだけのものと言えるのです。

「たいやきソフト」は、ひいらぎさんのカリカリの皮だからこそできる品。他のたい焼きではマネできません。 

■ともえ庵の出した答えは「練乳アイスを焼きたてのたいやきにサンドする」こと

 当店、たいやき
ともえ庵は、まったく違う形でたいやきとアイスクリームを組み合わせる方法を考えました。焼きたてのたいやきを2枚にスライスして間にアイスクリームを挟むのです。

 実は似たメニューが世の中にはありました。焼きたてのメロンパンにアイスクリームを挟んだ「メロンパンアイス」です。温かいメロンパンと冷たいアイスのコントラストが独特の美味しさになっています。溶けるまでに急いで食べなくてはならないのが大変ですが、かなりの人気になり、出されているお店はチェーン展開もされています。

 考えてみれば、世の中には「アイスクリームの天ぷら」など熱さとアイスクリームのとりあわせは色々あります。ともえ庵では熱々のたいやきとアイスの冷たさをとり合せることにしました。

 市販のアイスクリームを買ってきてたいやきに挟んで食べると確かに温度のコントラストが美味しい。でも課題も見えました。

 ひとつは誰にでもわかることです。たいやき一匹分を食べ終えるまでにアイスクリームが溶けてしまうのです。溶けたアイスは手や口に付いてしまい、食べにくいことこの上ありません。しかも溶けてしまうと美味しくないのです。

 もうひとつは甘さです。試しに買ってきた高級アイスは甘すぎて、もともとのつぶあんの美味しさも風味も吹き飛ばしてしまいます。これではたいやきで挟む意味がなくなってしまいます。

 新メニューの方向は決まりましたが、実現するためには中に挟むアイスクリームを改良することが必要でした。

■融けなくて甘みが少ない練乳アイスを作りました。

 何度も試作して作ったのが練乳をベースにした練乳アイスです。以下のような特徴をもつ練乳アイスが仕上がりました。

・温度が上がっても、多少軟らかくなるだけで溶けることはありません。

・アイスクリームらしい濃厚さを出しつつ、甘みを極端に抑え、つぶあんの美味しさが感じられるようにしました

・冷たさが感じられるよう、シャリっとした歯ざわりに仕上げました

 実は、この練乳アイスは、6年前から当店の独自の菓子として出している「阿佐ヶ谷練乳餅」の技術がベースになっています。阿佐ヶ谷練乳餅は、自家製の甘さを抑えた練乳を甘藷澱粉(サツマイモのでんぷん)で固めた、わらび餅のような食感の菓子です。

 阿佐ヶ谷練乳餅に加える甘藷澱粉の量を調節し、温度が上がると軟らかくなるけど、ギリギリ溶けない固さにします。さらに濃厚さを出すために生クリームを加え、練乳餅よりもさらに甘みを抑えました。また、温度差を楽しんでいただけるように、あえてシャリっとした歯ごたえに仕上がるように調節しました。

 冷たいうちに食べていただくと少しシャリっとしたアイスクリームですが、少し温度が上がるとムースにような食感になります。といっても、冷たい方が絶対に美味しいので温度が上がるまで待ったりはしないでください。

 原材料は阿佐ヶ谷練乳餅に生クリームを加えただけですから、いたってシンプルです。香料や保存料等の添加物は入っていません。

店内で練乳アイスを仕込んでいます

■たっぷりとサンドした練乳アイスですが、意外に軽く食べられます。

 こうしてできた「練乳アイスたいやき」、たいやきの温かさと練乳アイスの冷たさの組み合わせが楽しく、またつぶあんの風味や美味しさを感じつつ、練乳アイスの濃厚さ、冷たさを感じることができるものになりました。

 写真で見ると練乳アイスが大きく“重そう”に感じますが、実際に食べてみると甘さを抑えているので軽く食べることができます。また、練乳アイスは軟らかくはなりますが、溶けて流れたり垂れたりすることがありませんので、安心して食べていただくことができます。

■注意事項は「早く食べること」、見かけは融けないので要注意

「練乳アイスたいやき」、かなり食べやすいものに仕上げることができたと思っています。ですから、普通にご注文いただいて出来上がったものを食べていただければよいのですが、ふたつだけ注意していただきたいことがあります。

 ひとつは、ご注文いただいてから作るため、少しお待たせする場合があることです。できるだけ熱さと冷たさの温度差を楽しんでいただきたいので、たいやきは焼いて置いてあるものではなく、焼きたてのものを使います。タイミングによっては焼き上がりを少し待っていただくかもしれません。

 もうひとつは、とにかく早く食べていただくことです。すぐに食べないと温度差を楽しむことができません。ともえ庵の特製の練乳アイスは置いておいても見かけ上はほとんど融けませんが、時間が経つと温まって美味しくなくなります。油断しないで、少しでも早く食べて下さい。

 このような事情から、「練乳アイスたいやき」はその場ですぐに食べられる人限定で提供させていただきます。ご了承ください。

 あともうひとつ注意事項を思い出しました。
練乳アイスはそれだけで食べると、食べられないほど不味くはないですが、あまり美味しくないです。すでにご説明したとおり、「練乳アイスたいやき」はつぶあんの甘さが美味しく感じられるようにしているので、甘さが控えめ過ぎるからです。練乳アイス部分だけ齧るより、たいやき部分を一緒に食べてください。

■最後にひとこと

 たいやきにアイスクリームをサンドするという発想は、実は昔からもっていました。ただ、たいやき
ともえ庵は和の美味しさを追求しようとしている店なので、洋菓子の代表のようなアイスクリームを使うことにはためらいがあり、これまで積極的にはなれませんでした。

 それでも、たいやきに何かを入れて焼くという工夫は「月替りたいやき」でずっと行っており、焼いた後のたいやきに何かを加えることをやってみたいと思い、試行錯誤したところ、意外にも正解は手元にあった「阿佐ヶ谷練乳餅」の近くにありました。

もともと、阿佐ヶ谷練乳餅はかき氷に使う練乳を店内で作ったことから派生したメニューです。今回、それがさらに派生して「練乳アイスたいやき」になりました。「ともえ庵らしくない」のではなく、「ともえ庵だからこそできた」とも言えると思います。

 これまでにない、新しい菓子として仕上がっていますので、ぜひ一度お試しください。

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