たいやき ともえ庵では、2018年9月1日(土)より、巨峰を使った「生ぶどうたいやき」を提供しています。果物を使っているので期間限定の提供になります。
これまで何種類か出してきた果物を使ったたいやきの中でも、初めての生の果物を使ったたいやき、熱さと瑞々しさが同居している新鮮な味わいです。
今年はタイミングが合いませんでしたが、来年からは8月~9月、もしくは9月~10月の「月替りたいやき」としてお出しする予定です。
■生のぶどうの果実が入ったたいやきです
ともえ庵ではこれまで、定番の「たいやき」、「白玉たいやき」に加えて「月替りたいやき」として何種類かのたいやきを出してきました。
最初に作ったのが、砂糖漬けにした生姜を細かく刻んでつぶあんに合わせた「きざみ生姜たいやき」(2月)です。果物を使ったたいやきでは「紅玉りんごたいやき」(12月)、「広島レモンたいやき」(3月)、「信州あんずたいやき」(7月)を作り、どれも人気メニューになっています。
「月替りたいやき」の基本姿勢は、つぶあんに合わせて美味しく食べられること。「ずんだ白玉たいやき」(6月)だけは餡自体をずんだ餡にしているので例外となりますが、それも含めて和の餡の美味しさを追求したいと思っています。
今までに出してきた「月替りたいやき」、特に果物を使ったものと比較して「生ぶどうたいやき」が新しい点は、生の巨峰の果実を使っていることです。
生の果実を使うことで、たいやきの熱さと果実の瑞々しさが両立する、新鮮な味わいが実現しています。
■最初は「干しぶどう」を考えていました
いたずらにメニューを増やすつもりはありませんが、せっかく「月替りたいやき」を出しているからには、12か月分のメニューを揃えたいという思いがあり、ともえ庵では常に新しいたいやきを考えています。
最初に考えたのは、干しぶどうを入れることでした。フルーツケーキなど焼菓子と干しぶどうの相性が良いこと。つぶあんとラムレーズンをあわせたどら焼き「ラムどら」が鹿児島県で人気商品になっていることから、まず試してみたいと思ったのです。
ただし、上記のように「和の美味しさ」がともえ庵の基本方針、国産の干しぶどうは非常に高いので、もしそれがつぶあんに合うようなら干しぶどうから内製しようと考えていました。
結果的にこれは失敗でした。濃縮された干しぶどうの甘みがつぶあんの甘さと似ており、存在がなくなってしまったのです。しかも熱を入れて軟らかくなった干しぶどうは食感までつぶあんに似てしまいました。ぶどうの品種による違いはあると思いますが、多少の差があっても無理と判断しました。
次に試したのは、半生の干しぶどうです。長野県の農場で作っているものをネット通販で取り寄せ、たいやきにしてみたところ、干しぶどうとはまったく違いました。風味も強く、独自の食感も感じられます。半生の干しぶどうは作っているところが少なく、値段もかなり高いのですが、内製するなら問題はありません。
しかし、残念ながら際立つ美味しさはありませんでした。美味しいのですが、ちょっと感心するレベル、驚きがある味にはなっていませんでした。半生の干しぶどうそのものは、かなり美味しいものでしたが、たいやきには向かなかったのです。
ただ、半生の干しぶどうを試したことで、生のぶどうを使えるのではないかという手がかりを得ることができました。
上にも書いたように、これまで生の果実を使ったことはありませんでした。果物より糖度が高いつぶあんに合わせると、浸透圧の違いから果物から水分が出やすいので、美味しく仕上がらないと考えていたからです。
それでも、普通の干しぶどうより水分が多い半生の干しぶどうが美味しいのなら、より水分が多い生のぶどう果実ならもっと美味しいのではと思えたので、作り方は後で考えるとして、試してみる価値があるのではないかと考えました。
ちょうど「ぶどうのかき氷」を仕込むために巨峰を仕入れていたので、巨峰を粗く刻んでつぶあんに混ぜ、たいやきにしてみると、期待したとおりの瑞々しい味に仕上がりました。
■いろいろなぶどうを試して巨峰になりました
このように生の果実を使うことにしたのですが、まだ課題は残っています。まずは味を上げること、そして果実の品質を落とさない製法です。
味を上げるためにまず決めなくてはならないのはぶどうの品種です。手元にあった巨峰に加え、ピオーネ、シャインマスカット、デラウェアを試してみました。
ぶどうは、黒系、赤系、白系に分類されますが、巨峰は黒系、シャインマスカットは白系、デラウェアは赤系になります。ピオーネは黒系と白系の交雑種です。
シャインマスカットは、皮ごと食べることができるので期待していたのですが、マスカットのような白系のぶどうは黒系のぶどうに比べて甘みがあるものの酸味や渋みに乏しいのでたいやきにはまったく合いませんでした。
デラウェアは小粒なのでたくさん混ぜることができます。粒ごと入れることができるので、水分の流出がなく、果実感をより楽しめるのではと期待しましたが、巨峰などに比べて酸味が劣る結果になりました。
ピオーネは、巨峰とマスカットをかけ合せたぶどうで、より粒が大きいのが特徴ですが、残念ながらだめでした。決して美味しくない訳ではありませんが、巨峰とは誰が食べても分るくらいの味の差が出てしまいました。
かき氷のシロップに加工すると、色は薄いものの、巨峰より美味しく仕上がることが多いのですが、生のまま仕上げるかき氷と違い、熱を入れるたいやきには向かなかったので、驚きました。
最初に試作した巨峰が一番向いているという結果になりました。ちょうど、その翌日にかき氷用のピオーネが大量に山梨から届いたのですが、たいやき用には別に巨峰を仕入れることにしました。
巨峰については、かき氷についての過去のブログ記事「巨峰、ピオーネ、藤稔、ぶどうのかき氷」でも紹介していますので、ご覧になってください。
■生の果物を使うための工夫
品種が決まりましたが、もうひとつ味を上げるために必要なのは、巨峰をたいやきに入れる方法です。最初は粗く刻んでいましたが、果実をふたつに割る程度に刻んで存在感が感じられるようにしました。小ぶりな果実を丸ごと入れるのも試したのですが、それよりも果実がたいやき全体に散っている方が美味しく、食べていて楽しさも感じられると考えました。
また、ぶどうの酸味や渋みといった風味がより強く感じられるよう、あえて皮ごと入れるようにしました。
製造上の問題は、つぶあんと合わせた際の水分の流出でした。多量に水分が出ると果実の美味しさが損なわれるだけでなく、つぶあんが緩くなり過ぎてたいやきとして焼くのが難しくなってしまいます。
試行錯誤の結果、巨峰の果実を刻んだうえで、たいやき一匹分に使う量ごとに小さい容器に分けておき、注文をもらってから手早くつぶあんに合わせてすぐに焼くという方法にたどりつきました。
■注文いただく際の注意
「生ぶどうたいやき」は、ここまで紹介してきたとおり、生の果実の水分の扱いが重要です。
このため、焼き置きはせず、注文をいただいてから焼かせていただきます。果実をつぶあんと合わせ、焼き上げるまでに7~8分(先の注文がある場合には10分)程度の時間が必要になります。
また、召し上がっていただくのは焼きたてに限定です。果実の水分が出て、たいやきの魅力のひとつであるパリッとした皮が湿ってしまい、美味しさが損なわれてしまうからです。提供は、すぐに食べていただける方のみになりますので、ご理解ください。
このように色々と制約が多いたいやきですが、その分、今までになかった生の果実の瑞々しさが加わった他にない味わっていただけるかと思います。「生ぶどうたいやき」、ぜひお楽しみください。
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