たいやき ともえ庵が少し自慢にしているのは、店にいる全員が「うちのたいやきが日本でいちばん美味しい」と思って働いていることです。
今回のブログ記事では、その理由をご紹介していきます。
■食べ物の美味しさを客観的に比べることはできません
たいやきに限らず、食べ物の味に優劣をつけることは難しいことです。
同じ料理でも、出来たてである、旬の材料を使っているなど、その食べ物の状態によって違いがある他、食べる人の状態にも左右されます。暑ければ冷たいものが美味しいし、寒ければ温かいものが美味しい、またお腹が減っていれば、同じ食べ物でもより一層美味しく感じます。
それ以上に違いが大きいのが、食べる人の好みです。好みは、それまでの食生活によって形づくられたものですから、ある人にとって美味しいものでも別の人はそうでもないと感じることはよくあります。
東京の人は色の濃い醤油が好き、関西の人は色が薄くて塩味が強い醤油が好き、九州の人は甘みがある醤油が好き、というように地域によって明確に好みに違いが出る場合もあります。
たいやきの場合には地域ごとの差はあまりありませんが、ともえ庵のように甘みを抑えた餡が好きな人もいれば、逆に甘みの強い餡を好む人もいらっしゃいます。皮についても、当店の薄いパリッとした皮が好きな人、ふわっとしたパンケーキのような皮が好きな人など様々です。
ですから、「日本でいちばん美味しいたいやき」を客観的に決めることは不可能、これはあくまで、ともえ庵で働く人間の主観にすぎません。
■焼きたてが美味しいたいやきは、さらに比べるのが難しい食べ物です
小豆(つぶあん)と皮以上にたいやきの美味しさを左右するのが焼いてからの時間です。簡単に言ってしまえば、時間が経った美味しいたいやきより、焼きたての普通のたいやきの方が美味しいのです。
ですから、たいやきの美味しさを比べるのはかなり難しくなります。焼きたてを同時に食べ比べることがは不可能だからです。
遠方の名店のたいやきを買って阿佐ヶ谷までもってきて、ともえ庵のたいやきと比べるとうちが圧倒的に美味しい、でも阿佐ヶ谷でうちのたいやきを買って離れた場所までもっていって食べるなら、その場所にあるたい焼き屋さんの焼きたてには適わないと思います。
では、厳密に比べるために中間地点で食べ比べる、いやどちらも十分に冷まして同じ条件で・・・、その比較には意味がないと思います。どの店でも、たい焼きは焼きたてがベストの状態。評価や比較をするなら、やはり焼きたての味で比べなければいけないからです。
ですから、色々な店を食べ歩き、各店の焼きたてのたいやきを食べ比べている人でなければ、どの店が美味しいということはできないのです。
ですから、繰り返しになりますが、うちの店の人間が「日本でいちばん美味しいたいやき」だと思っているのはあくまで主観です。
■自分で作ったものはより美味しく感じるからかもしれません
もうひとつ、人間には自分が考えたものや自分が作ったものをより美味しく評価する傾向があります。
自分の好みに合わせて考えたり作ったりしている、ということもその理由なのですが、そうでなく決められたレシピの食べ物でも、手間をかけたり苦労したので報われたいと無意識に考えるからなのか、やはり自分で作ったものは美味しく感じるのです。
食べ物以外でも、個人の性格、外見のルックス、カラオケの上手さなど、明確な基準がないものについては、自分がいちばんだと思うまではなくても、実際以上のものだと思っている人がほとんどだと言いますから、誰でも自己評価が高くなる傾向があるのでしょう。企業の人事部の人に聞いてみると、上司による人事評価より自己評価が高くなる人がほとんどだそうです。
ですから、ともえ庵で働く人は、実力以上に「日本でいちばん美味しいたいやき」だと思っている可能性は否めません。
■もともとの好みが似ている可能性もあります
実はともえ庵で働いている人には、店を作った時からずっと働いている人はいません。現在の店員はすべてともえ庵のたいやきを食べて、気に入って働くことを決めた人ばかりです。
なので、ともえ庵のたいやきの味が好みに合う人だけが入っている可能性もあります。
ですから、「日本でいちばん美味しいたいやき」と思っているのは、単に好みに合っただけなのかもしれません。
■それでも、少しは客観的な根拠もあります
もともとともえ庵の味を好む人が働いていて、自分たちが苦労した分美味しく感じ、さらに常に焼きたてを食べることができる。そう考えると、このブログ記事で書いている「日本でいちばん美味しいたいやき」というのはかなり好みや思い込みの産物のように感じられるかもしれません。それでも、多少は客観的な根拠もあります。 過去のブログの記事にも書いているのでくどいかもしれませんが、このような点です。
甘さを抑えたつぶあんは、当日に仕込み、次の日に回さないで使い切ります。クセのないグラニュー糖を使い、焼くことができるギリギリまで糖度を抑えたことで、上品な甘さに仕上がるだけでなく、北海道産の小豆の風味をしっかりと味わうことができます。
参考記事:「たいやきの餡 ~小豆と仕込みの話~」、「たいやきの餡 ~餡と砂糖の話~」
パリッとした食感の皮は客観的にも日本一薄い皮だといえるものです。
一丁焼きのたい焼きは皮が薄く仕上がりますが、うちではその中でもさらにひと手間を余計にかけているため、胴回りの薄さだけでなく、頭の先から尻尾の先まで皮を薄く仕上げることができます。
参考記事:「本気で薄いたいやきの皮」
焼きたてにこだわり、すぐに召し上がる場合には「後入れ先出し」で提供しています。焼き上がってから20分以上経ったたいやきは、お客さんに出しません。
参考記事:「やっぱりたいやきは“焼きたて”にこだわりたい」
今のところ、こうしたともえ庵なりのこだわりが世の中に十分に伝わっているとは言えません。でも、苦労しながらやっている自分たちにとっては、「日本でいちばん美味しいたいやき」だと思える根拠なのです。
■食べ比べた上で自信をもっています
もうひとつ、こちらはあくまで主観ですが、「日本でいちばん美味しいたいやき」だと思う根拠になっているのが店で行っている研修です。
たいやき ともえ庵で働く人は、基本的に仕事をしながら手順や技法を覚えてもらいます。接客の基本についてはマニュアルを用意しており、レシピは資料にまとめていますが、たいやきを焼くことも、かき氷を削ることも、そのため仕込みも感覚を身体で覚えることが必要ですから、そのほどんどは仕事をしながら覚えるOJT(On The Job Training)
になります。
その中で、唯一と言っていい店を離れたOff-JT(Off The Job Training)研修が「たい焼きの食べ歩き」です。ともえ庵でしばらく働いた人を対象に、1日かけて他店のたい焼きを食べ歩いてもらうのです。
研修ですから、その日は時給が発生し、交通費も店が負担しますが、たい焼きは自腹で買ってもらうことにしています。払ったお金と買ったたい焼きの価値を真剣に感じてもらうためです。食べ歩くのは、“御三家”の老舗を中心に、評価が高いお店です。ともえ庵より圧倒的に有名で評価が高く、買い求めるお客さんが常に行列している繁盛店を見てもらうのです。
焼き方、道具の配置、接客など各人それぞれ気づくことは違いますが、この「研修」後に明らかに変わることがふたつあります。
ひとつが、ピーク時や土日に行列してもらえる程度ではとうてい“繁盛している”とは言えないと理解することです。常に行列が途切れない本当に繁盛している店の凄さを感じ、自分たちはまだまだだと思うようになるのです。
そしてもうひとつが、自分たちが焼くたいやきがどこにも負けていないと自信を持つことです。世の中に評価されている店と食べ比べた結果、自分たちの中では「うちの方が美味しい」と納得し、自信をもって焼き、提供することができるようになります。
ですから、ともえ庵ではこの研修を重要な日と位置付けています。
■「どの店がいちばん美味しいか」より大切なこと
ともえ庵では、「いちばん美味しいたいやき」を目指し続けることをもっとも重要なことと考ていますが、「どの店がいちばん美味しいか」という究極的には誰にも決められないことは重要ではないと思っています。 それでも、研修まで行っているのは、「嘘がない」ことが大切だと考えているからです。
心の底からいちばん美味しいたいやきだと思えるから、質を落とすことがないように技術を磨き、胸を張ってお客さんに勧めることができる。全員がその気持ちを持つことで、店内にまったく嘘がなくなります。
ですから、ともえ庵が本当に自慢しているのは、働く全員が嘘のない仕事をしていることなのです。
お客さんに尋ねられた時に答える「美味しいですよ」という言葉に、一抹のやましさもない自信と裏付けを持っている店であること。それを続けていれば、いつか自分たちの主観が多くの人の主観になる日が来ると信じています。
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