たいやき ともえ庵のメニューの中で「一番自信があるもの」と尋ねられたら、間違いなく「たいやき」だと答えます。でも、「この店でしか食べられないもの」と尋ねられたら、他店のたいやきと分かりやすい違いがある「白玉たいやき」をお試しいただきます。
■試行錯誤を繰り返した当店の独自メニューです
白玉が入ったたい焼きは、うちのオリジナルではありません。他所の店でも白玉入りたい焼きはありました。白玉を卵になぞらえて、子持ちたい焼きなどという名称で販売されているところもあります。
ただ、うちが白玉たいやきを取り扱う前の段階で、かつ知る限りの話ですが、他の白玉入りのたい焼きを扱う店はすべて冷凍の白玉団子をそのままたい焼きに入れて焼かれていました。それに対して、ともえ庵では「たいやき用の白玉」を白玉粉を店内でこねて茹で、作っています。それが他にない独自メニューたる所以です。
最初、白玉たいやきを試した時には、うちでもまず冷凍の白玉団子を購入し、たいやきを焼く際にそのまま挟み込んで焼いてみました。もちろん、お客さんに出すためではなく、実験用です。結果、「まあ美味しい」というものが焼き上がりましたが、イメージとはほど遠いもの。次に完全に解凍した白玉団子を入れて焼いてみると、今度はまったく食感が違う、とろけるような柔らかさの仕上がりになりました。
「市販のものでこれだけの味が出るなら、白玉粉から作ればもっと美味しくなるはず」、基本的に使用する食材を店内で自家製する方針の店ですので、すぐに白玉粉から作ってみたのですが、どうやら白玉団子そのものは単純な食品みたいで、それほど劇的に味は変わりませんでした。
その代わり、自家製のメリットが出たのは白玉の形状です。玉というくらいですから小さくて丸い形が当たり前なのですが、それをともえ庵のたいやきに入れると、餡がゆるいこともあって、白玉が尾のほうにずり落ちてしまうという難点があったのですが、自家製する際に、棒状の白玉ならぬ“白棒”にして仕上げ、たいやきの中で安定する形にすることができました。
■そもそも白玉とは?
ここで少し話題がそれます。
そもそも白玉とは何でしょうか。おそらく誰もが食べたことがある白玉ですが、餅や団子との違いについて知っている人のほうが少ないのではないかと思います。
白玉は、もち米から作る白玉粉に水を加えて練り、茹でて作ったものです。それに対して、団子はうるち米(普通のお米)から作った上新粉を原料とし、やはり水を加えて練りますが、その後は蒸して仕上げます。餅については、誰もが知るようにもち米を蒸してから杵でついて作ります。
白玉は冷やしても軟らかいので、あんみつやかき氷などにも添えられ、つるんとした触感が特徴です。なので、たいやきとの中でもとろけて独特の食感と美味しさになります。
■白玉を入れたことでつぶ餡がさらに美味しくなりました
さて、話は白玉たいやきに戻ります。白玉を入れたことで、予想していなかったメリットがありました。
白玉を入れて焼くことで、つぶ餡の中に白玉の水分が出て、通常のたいやきに比べてより水分の多いみずみずしい餡に仕上がるのです。
店を始めて最初のうちは、早い時間の餡にくらべて夕方以降の餡はどうしても水分が少なくなってしまっていました。しかし、白玉を入れて焼くと遅い時間帯の餡でも、炊き上がったばかりの餡のようにみずみずしく仕上がりました。現在は餡の水分のコントロールができるようになったので時間帯によって餡の品質が極端に違うということはありませんが、それでも白玉が入ることにより、どの時間帯のたいやきでも少しみずみずしさが増すのは変わりません。予期せぬ誤算が味を高めてくれました。
■焼くのに手間と時間がかかるのが弱点
しかし、デメリットも生じます。
ひとつは、焼くのに時間と手間がかかることです。うちの一丁焼きのたいやきは、1分弱でハシ(金型)からたいやきを取り出し、新しい生地の粉と餡を詰め替え、その後6分程度焼いて作ります。連続して作るので焼き時間はそれほど問題にはならず、ハシに材料を詰める時間が生産性を決めることになります。普通のたいやきが、粉→餡→粉と入れていくのに対して、当初の白玉たいやきは、粉→餡→白玉→餡→粉と詰めなくてはならず、普通のたいやき二匹分の時間がかかってしまっていました。
しかも、事前にまとめてではありますが、白玉粉から白玉を作る手間もかかります。店頭に貼ってある白玉たいやきのポスターや、ホームページの案内には「かなり面倒なたいやき」と表現していますが、こんな理由からなのです。
端が緑っぽく見えますが、粉から透けて鉄の下地が見えているだけです。
現在は、もうひと回り白玉が大きくなっています。
なお、作り方については、その後改善し、今ではひと手間抜いて粉→餡→白玉→粉、という手順になっています。餡に白玉を挟まなくても食感が維持できることがわかったからです。それにより、白玉と皮が密着したので、餡の中で白玉が下にずれて落ちることも減りました。また、餡で完全に覆う必要がなくなったので、白玉をより大きくすることができ、食べ応えが増しました。
今の白玉たいやきをよく見ると、中の白玉が透けて見えるはずです。
■日本一“級”に高いたいやき
ご存知の方も多いと思いますが、たい焼きは材料費が安い反面、手間、つまり人件費がかなりかかる商売です。一丁焼きの場合、その傾向はさらに強まります。それを維持するには、お客さんに払っていただく代金を上げするかありません。
通常のたいやき二匹分以上の手間と時間がかかっていることから、300円という価格をつけさせていただきました。ただ、300円というたいやきとしては異常に高い値段が受け入れられるのか、まったく未知数で自信もなかったので、当初は白玉たいやきの袋をまとめて印刷することもできなかったくらいです。
幸いなことに白玉たいやきは、お客さんに気に入っていただき、安定して注文してもらえるようになりました。
このような理由で付けた値段なので、あまり他所のお店のたい焼きの値段は気にしていなかったのですが、先日、うちで出している「月替りたいやき」の値段について考えていた際に、ふと気になって他のたい焼き屋さんのうち、値段が高そうなお店の価格をWEBサイトで見てみました。
結果、かなり高いたい焼きでも200円台に止まっており、300円を超えているものは、一部、惣菜が入った食事的なたい焼きか、期間限定の特別なたい焼きだけだということがわかりました。
つまり、定番で甘味として売られているたい焼きとしては、おそらくうちの白玉たいやきが日本一高いということです。(とはいえ、調べた中なので他にあるかもしれませんから、日本一“級”に高いという表現にさせていただきます)
それほどの値段でも、多くの方に何度もご注文をいただいていること、感謝するとともに誇りに思っています。
■すぐには食べていただけません、長い時間の持ち歩きもできません
白玉たいやきには、手間がかかること以外にもうひとつの弱点があります。それは、時間がもたないことです。
焼き手としては、白玉たいやきでも、通常のたいやきでも同様に少しでも早く食べて欲しい。どちらも焼きたてをピークに時間とともに美味しさが損なわれていくからです。でも、特に白玉たいやきは、味の劣化が早いので、できればその場で食べて欲しいと思っています。白玉に含まれている水分が時間とともに出てしまい、ともえ庵のたいやきの特徴であるパリッとした皮の食感を損ねてしまい、本来の美味しさとほど遠いものとなってしまうのです。
ですので、申し訳ないのですが、白玉たいやきはすぐに食べることができるか、せいぜい10分程度の持ち歩き時間で召し上がっていただける方のみに買っていただきたいと思っています。
以前は持ち歩き時間をお伺いし、10分以上の方には購入をご遠慮いただいていたくらいです。最近は、あまり厳密にはさせていただいておりませんが、店頭のポスターには、そのことを明示し、お客さんにご判断いただいています。
また、時間がもたないため、焼いて置いておくことができません。ですので、ご注文をいただいてから焼きますので、空いている時でも6~7分程度、混んでいる場合には10~15分程度お待たせすることになります。
ただ、まれに白玉たいやきが焼きあがっていて、お待たせしない場合もあります。白玉たいやきは注文を受けてから焼くため、失敗して上手く焼けなかった場合、さらに一から焼き直す訳にもいかないので、予備を一緒に焼いているのです。なので、その予備が焼き上がったタイミングでご注文をいただいた場合、ちょうど焼き上がったものが並んでいるということになります。
また、閉店間際には残った白玉を焼いてしまうので、それが焼き上がったタイミングでご注文をいただく場合もお待たせせずにお出しできることがあります。
とはいえ、普通のたいやき以上に焼きたてが一番の魅力ですから、ぜひ時間に余裕を見て、注文いただければと思います。
おかげさまで、今では「白玉たいやきでなくちゃ嫌」と、毎回ご注文くださるお客さんや、「ネットで見た」と遠方からお越しいただき、SNSで紹介して下さるお客さんなど、白玉たいやきのファンになって下さるお客さんが増え続けています。
日本一高く、そして手間をかけている「白玉たいやき」、ぜひ一度お試しください。
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