やっぱりたいやきは“焼きたて”にこだわりたい

 美味しいたいやきの条件は何でしょうか。

 ともえ庵が考える美味しさは、たっぷりと入ったつぶあんとパリッとした皮です。たっぷりと入っていても美味しく食べられるように、つぶあんは砂糖を減らし、甘さはかなり抑えなければなりません。そうすることで、やさしい甘さになるだけでなく、素材である小豆の風味を感じられるものになります。

 皮は余計なものを混ぜず小麦粉とほんの少しの砂糖と重曹を水に溶いて作ります。水分を多めにすることで、焼くのには時間がかかりますが、仕上がりは薄くパリッとした歯ごたえ、そして小麦の風味が心地よいものになります。

でも、それ以上にたいやきの美味しさを決める要素があります。

 それは、“焼きたてであること”です。

 もちろん、焼きたてでさえあればどんなたいやきでも美味しいというつもりはありません。でも、一定のレベルを超えた美味しさのたいやきであれば、「焼いてから数時間経った“むちゃくちゃ美味しいたいやき”」より、「焼きたての“そこそこ美味しいたいやき”」の方が絶対に美味しいはずです。

 材料の質や作り手としての工夫や技術が時間に負けるなんて・・・ちょっと悔しい気がしないではありませんが、考えてみれば当たり前のこと。パンは焼きたてが美味しいし、揚げ物は揚げたてが美味しい、ご飯は炊きたてが美味しいに決まっています。調理したものを出している以上、そのことは材料や技術とは次元が違う前提として認めざるを得ません。

 ですから、ともえ庵ではできるだけ焼きたてのたいやきを食べていただきたいと思い、提供方法を決めています。

■たいやきは後入先出でお出ししています

 ともえ庵が、焼きたてのたいやきを食べていただくために行っている具体的な方法のひとつが、「後入先出」(あといれさきだし)です。注文をいただいた際に、その場に焼き上がっているたいやきの中でもっとも新しいものから順に出していく方法です。

 たいやきに限らず一般的に多くの店は、先にできたもの、仕入れたものから販売していくという「先入先出」(さきいれさきだし)で商品を管理しています。スーパーマーケットの棚を見ると賞味期限が短い食品が手前に置かれていることが多いと思いますが、これが「先入先出」です。こうすることで、賞味期限までの期間が短い古いものから先に売れるので、賞味期限までの期間が長い商品が残り、少しでも長い間売ることができるからです。

 パッケージに密閉された商品の場合、鮮度はそれほど味に影響しないので、「先入先出」は効率的な方法です。ただし、買い物をするお客さんにはそんなことを知っている人も多く、棚の後ろのほうに並べられている新しい商品を引っ張り出して買われている姿もよく見かけます。

 たいやきでも売り手の立場からは、少しでも長く売って廃棄を少なくしたいというのが本音、「先入先出」で販売されている店もたくさんあります。

 でも、上でも書いたとおり、最高に美味しいたいやきは焼きたてのもの。時間が経つと味が落ちていきます。少しでも美味しいたいやきを食べていただきたいという思いから、すぐに召し上がられる方については、後入先出での提供をさせていただいているのです。

 ですので、閉店間際の焼き台の火を消してしまった後などを除けば、基本的にその場にある中で焼きたてか、それに近いものを食べていただけます。

焼き上がったたいやきは向かって右側から並べ、すぐに召し上がるお客さんには左側の新しいものからお出ししています。

■食べるまで時間がかかる方には“あえて”焼きたてではないたいやきを出しています。

 ただし、お召し上がりまで時間がかかるお客さんに対しては、“あえて”焼いてから時間が経ったたいやきを出しています。

 どうせ食べるまでに冷めるだろうから、と思われるかもしれませんが、違います。

焼きたてのたいやきからは水分が湯気となって出るので、長時間持ち歩かれるとたいやきを一匹ずつ入れている袋にくっついてしまうのです。ですので、焼いてから少し時間が経ち、表面がやや乾いているたいやきを選んで入れるようにしています。

ともえ庵でたいやきを注文されるお客さんには「お召し上がりまでどれくらい時間がかかりますか」と尋ねるようにしていますが、それにはこのような理由があるのです。

 ただし、店が混んでお客さんが順番を待っているような場合は、すべてのたいやきが焼きたてですから、長時間のお持ち歩きのお客さんにも焼きたてを出しています。その場合、お渡しする際に「袋を開けてお持ち帰りください」と申し上げるようにしていますが、これは袋を開けたままにすることで水蒸気(湯気)を少しでも逃がすためです。

 なお、お持ち帰りの際にビニール袋をご要望されるお客さんもいらっしゃいます。荷物が多くどうしても手提げにする必要がある場合や雨の日などの場合には手提げのビニール袋に入れざるを得ないこともあると思いますが、それ以外の場合には蒸れやすいビニール袋はお勧めできません。

■20分過ぎを目途にたいやきを廃棄してきました

 焼きたてか、それに近いたいやきを食べていただくため、ともえ庵では焼いてから20分過ぎを目安に、水分が抜けて固くなったたいやきを廃棄してきました。先ほど、持ち帰り用に水分が抜けているものを選ぶと書きましたが、これは表面の皮の話。中の餡の水分が一定量以上に抜けてしまうとやはり美味しくなくなります。

 時々、「まだ十分美味しいのだから捨てるならちょうだい」などと言われることもありますが、作り手としては美味しくなくなるまで置いておくことはできないので、まだ美味しいうちに廃棄せざるを得ないのです。

 時間が経ったたいやきを廃棄することは、感覚的にそれほど特別なことではないと思われるでしょう。しかし、上で記した「後入先出」であることを含めて考えると、かなり難しくなります。焼き上がったたいやきを新しいものから出すことで常に古いものが残り、20分以上経つと廃棄されていくからです。つまり、最初の焼きたてのタイミングで売れなかったたいやきはかなり高い確率で廃棄されてしまうということなのです。

 

■「捨てながら焼く店」の覚悟

 正直に言うと、まだ美味しいたいやきを廃棄するのは心が痛みます。いえ、例え美味しくなくても食品を捨てるのに心が痛まないはずはありません。でも、お客さんに美味しいたいやきを食べていただくためには避けられないことです。

 以前に店長が店員全員に送ったメールに「うちは美味しいたいやきを出すために“捨てながら焼く店”です」という一文がありました。捨てるという言葉は良いものではありませんが、あえてその言葉を使ったところに、「悪者になってでも美味しいものを出す」という店長の覚悟が込められています。

 ともえ庵には、たいやきを捨てたいと思っている店員は居ませんし、割り切って捨てている店員もいません。全員が泣く泣く廃棄しているのです。

■廃棄する覚悟から生まれた「たいやきの開き」

 ただし、たいやきをたくさん廃棄してきたのは少し以前、2017年9月までの話です。10月からは大幅に廃棄を減らせるようなりました。新メニュー「たいやきの開き」を発売したからです。詳しくはこちらのブログ記事「たいやきの開きって何だ?」を見ていただければと思いますが、要はこれまで水分が抜けて廃棄していたたいやきを開きにして再度焼き、水分を飛ばしてしまうことで日持ちがする新しい菓子にしたのです。

 これにより、廃棄する痛みから解放され、心置きなく美味しい状態のたいやきを出すことができるようになりました。それでも、廃棄という良くないことをしてでも美味しいものを出そうとしてきた気持ちはずっと伝えていきたいと思っています。

「たいやきの開き」を作っているところ。材料からたいやきを作るより手間がかかります。

■焼きたてを希望される場合はお申し出ください、できる限り対応します

 これまで紹介してきたように、ともえ庵では可能な限り焼きたてのたいやきを出しています。それでも、タイミングにより焼いてから時間が経ったもの(といっても数分くらいですが)しか出せない場合があります。

そうした際に、すぐに食べるために焼きたてをご希望されるなら、「少し待つので焼きたてのたいやきをください」とご要望ください。お待ちいただけるのなら、ハシ(金型)から取り出したすぐのものを提供させていただきます。

 

 時々、たくさんのお客さんが行列を作られ、焼きたてのたいやきを一匹ずつ買って食べてくださる、という夢を見ます。少しでも焼きたてのたいやきを出したい、という想いが求める究極の姿です。

 もちろん、そんな訳にはいかないことは承知しています。それでも、何匹か買ってお持ち帰りになるのであれば、最初の一匹はその場で食べて欲しいと思っています。それが本当のたいやきの美味しさですから。

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